ラプトリアの生い立ち
「・・・・・・・・こ、これが俺のパートナー?」
「そうです。おめでとうございます。現地契約ではありますが、この度、竜に認められました。名実ともマスターのパートナーですよ。」
「・・・そうか。そうだよな!」
竜二は眼前の竜を見ながら胸が高鳴る想いだった。
俺がついに竜使いになれたんだ!
この世界の子供たちの憧れの職業に大きく近づいたんだ!
感無量だ!やったー!!
竜二は小躍りしながら、竜と向かい合った。
「俺、松原竜二。これからよろしくな。ラプトリア!俺、全力で期待に応えるかんな。」
「ええ、竜二。私もあなたの期待に応えてみせる。」
落ち着いているが確固たる決意の発言に聞こえた。
というより勝手な思い込みだろうが、こんな落ち着いたメスドラゴンだとは思わなかった。
人語を話せるからCランク以上なのだろうが、ドラゴンといえば、もっとプライドが高くて、口が悪く、上から目線で『お前と契約してやるのだから有難く思えよ。』的な態度をとられるのかと思っていた。
もし、そんな性格ならば下位のドラゴンに切り替えようかなと思っていただけに良い意味で衝撃的だった。
それとも怒ると豹変するタイプかな?
けど相性は良いみたいだし、理由もなく自分に逆らったりはしないだろう。
にしても、ついさっきまでつぶらな瞳をもつ幼竜だったのに自分より相当大人びている。少なくとも精神力は自分より格段上だと感じた。
ん?Cランク以上といえば?
「そういや、ラプトリアは何ランクの何ドラゴンなんだ?」
ジキスムント「私にもわかりかねます。ですが正統系ではないのは確かです。正統系なら私もある程度知識がありますが、ラプトリアの種族は私も見たことがありません。おそらく特殊系でしょう。」
「ラプトリアは・・・自分の種族はわかる?」
ラプトリアは首を横に振った。
まあ竜神殿が定めているのだから竜たちは知らないのは仕方がない。
でも、ジキスムントも知らないとは・・・結構俺は運が良いのかな?
なんにせよ、これで竜騎士に大きく近づいた。あとは竜神殿にいって本契約だ。
現在ラプトリアに乗ろうと思えば騎乗できるが、馬具ならぬ竜具がないとお尻や股関節や背中など体の節々に負担がかかるため、ジキスムントの進言もあって騎乗は竜具を買うまでお預けになった。
早く乗りたいなあと思う。
幸いなことに竜二は高所恐怖症ではないので楽しみの方が強いようである。
二人がスノーキュリアに乗ってキャッスル出口に向かっている間もラプトリアはスイスイと飛行している。
竜として本格的に能力が上がり始めるのは神殿での契約後だが、飛行に関しては一人前のようだ。
そんなことをつぶやくと、
「あれくらいの飛行は序の口です。もし、ラプトリアがCランク以上の竜ならば、経験を積んで肉体の方も生育し、マスターとの絆も深まれば眼で追うのも困難になるほどの飛行能力になるでしょう。」
今より速くなるのか?アースドラゴンと上位ドラゴンの能力差は一体どのくらいなのだろう?
それ以前にそんな高速になったドラゴンに乗って目を開けていられるのだろうか?酔わないだろうか?皮膚を切ったりしないだろうか?
頼もしい半面、怖くなる竜二であった。
帰還中はラプトリアが傍にいるだけで全然他の竜が襲ってこなかった。いや姿を見せないといった方が正解か。偶に出現しても逃げ出してしまう。
ラプトリアはランクはまだ不明だが上位ドラゴンであることに間違いはないようである。
実に心強かった。
キャッスル内を出て初の野宿になった。
もうキャッスルのドラゴンは襲ってこないため、安心してラプトリアと会話できる。
この間にわかったことは、神殿兵士もラプトリアは何ドラゴンなのか分からないということだ。
キャッスルの門番にも聞いても巡回中の神殿兵士に聞いてもラプトリアの種族は分からないとのこと。
つまり特殊系であることに間違いないということだ。
神官長は自分に対し、かなりドライな対応だったため、行かなくても良いかな?などとも思ったが種族判別のためにも戻らなければならないようだった。
「ねえ、ラプトリア。君の家族は?」
「父と母は仕事に出ていたの。とはいえ顔を見てはいないのだけど…竜二が会ったのは私の祖父。兄弟はいるけどまだ卵から生まれてないわ。私が一番早く生まれた。まあ私が一番の姉になるわね。」
「え?え?え?・・・まってまって親の顔を見てないというのはどういうこと?親の仕事とは!?」
「詳しくは知らない。祖父からは仕事に出ていて帰れないとだけ言われた。親は二週間に一度だけ帰れると言っていたの。けど私が生まれて九日後に竜二、あなたが現れた。だから親の顔は知らない。」
てえええと、キャッスル内で一晩野宿したからまだ、ラプトリアは生後十日目?
それで、こんなに大人びているのか!!!
竜の価値観はどうなっているんだ!!
いくらなんでも見ず知らずの人間の男に生後間もない子供を託すとは・・・
ジキスムントは竜二の困惑ぶりを見抜いたのか、口を挟んできた。
「マスター、竜の世界では子供と大人の境が人間と違います。竜は生まれた直後から意思がはっきりしており、物心がついているのです。そして契約によって肉体の成長を促すことができます。竜とはいえ幼竜の頃は戦闘力は皆無です。つまり人間と契約を結ばせた方が生存率が上がるということです。生後間もない子供を人間に託すのは決して珍しくありません。」
「で、でもさ。見ず知らずの信用できるかさえ分からない人間に託すだなんて無用心すぎない?」
「そのために祖父がいたのでしょう?親族が子供の護衛と人間の判別を行って託すかどうか決めるのです。ランクが高ければ高いほど知性がつき、人間への観察眼が上がります。マスターはあの老竜に気に入られたからでは?」
「間違いないと思うわ。短い間だけど祖父は厳格だったから。祖父はよく言っていた。『お前は特別なんだぞ。だから弟妹達より強くなるんだ。お前に相応しい人間を見つけてやるからな。』って」
竜二はまだ困惑しているようだ。
異世界の変化に慣れてきたと思っていたが、過信だったようだ。まだまだ自分の常識は覆られそうだと実感する。
「すると、兄弟を知らないというのはまだ卵から孵っていないということ?」
「ええそう。」
「寂しくない?親とも会えず、兄弟とも会えず、祖父とは離れ離れで・・・」
「竜とは元々、独立心が強い。むしろ早く独り立ちした竜が尊重される。寂しさはあまり感じないわ。契約者がいれば十分ね。」
竜二は胸が切なくなった。家族との絆が希薄にもほどがある。
独り立ちできるのに越したことは無いが、ここまで冷静でいられるだろうか?
竜二は、自分だけはできるかぎりラプトリアのそばに居続けよう。ラプトリアが自分と契約できて良かったと言えるように、ラプトリアが自分といれば寂しさを忘れられるように。
見る人によってはお節介だが、竜二は固く決意したのだった。
一方でジキスムントは脇で冷静に竜二を観察していた。どうも我が主の価値観は我々と違うようだ。
これが吉とでるか凶とでるかは分からないが・・・・
今は死んだ、自分のパートナーだった竜を当時どう見ていただろうか?
単なる軍馬と同じ目線で見ていなかっただろうか?
そもそも死んだ時、涙一つ流さなかった気がする・・・・いまなら「ありがとう」と言えるだろうか。
ジキスムントもまたその夜、感傷に浸っていたのである。
数日後、ようやく竜神殿に着いた。
このとき、ラプトリアを見た神殿関係者(特に書記官達)は大いに焦る事になった。
そして瞬く間に噂になった。
『松原竜二という男は・・・・・あの‘最凶’の竜と契約してしまったのだと・・・』