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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
第1章 異世界召喚編
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パートナードラゴン

竜二はしばらく固まっていた。




しかし、間違いなく竜が居座っているである。

置き物ではない。きちんと呼吸している。

しかもこちらの視線に気づいたのか、こっちに振り向いた。

何かをしてくるわけでもない。



「マスターいかがですか?例の秘密道具とやらは。」


ジキスムントはテントから様子見に出てきた。


「い、いるんだ!!」


「竜がですか!?」


「・・・ああ、すぐそこに!!」


竜二は右手に防火種を持って身構え、

左手であわててナイトスコープをジキスムントの目にあてがった。


「・・・・・・・・・な!何ということだ!」


ナイトスコープを外すとやっぱり見えない。竜二は確信した。竜は隠れていたのではない。


視認されていなかったのだ!!

だから気配はしていたのに発見できなかったのだ。ナイトスコープが無かったら、間違いなく無防備な就寝姿をさらしていただろう。

ジキスムントは、あわてて身構える。

竜は相変わらずこちらを見ている。隙だらけだ。だが竜二もジキスムントも動けない。まるで近づいたその瞬間が、お前たちの最後だと言わんばかりに居座っている。



素手で肉食動物と対峙した時もこのような状態になるのだろうか?

さすがのジキスムントも竜の出方を窺っている。顔は余り変えてないが、呼吸が荒い。ここまで呼吸が聞こえてくる。今まで、竜を軽くあしらってきた彼でも声が出ないのだ。



どのくらい経ったのだろうか?

まだ5分も経ってないだろうが30分以上たったように思える。



「あの、ドラゴンさん!そろそろ逃がしてもらえませんかね?でなきゃ眠らせてもらえませんかね?」


調子の良い愛嬌たっぷりの笑顔で愛想笑いして話しかけて見た。

足はガクガクである。

防火種は持っているが、この距離では火でも吐かれたら使う前に焼死決定だろう。

かといって先にこれを使って竜を刺激しようものなら次の瞬間、胃の中だろう。

いまの発言は竜を少しでも刺激しないように、打開するための竜二なりの即興で考えた悪あがきであった。


「ホウ、我ガ見エルノカ?」


突然竜が話し始めた。

声が聞こえる!!

竜の口は動いていない。どういう仕組みなんだ?テレパシーって奴か?それとも本来の声が大きくて小声でも聞こえるとか?


「え、ええ、見えますよ!」


竜二も社会人経験があるだけに即席での応対には慣れている。会議のプレゼンで突然指名されたりして慣れているからだろうか?突然出た言葉がそれだったのである。


「ナラバオ前ハ、他ノ人間ト違ウナ。契約シニ来タノカ?」


「そうです。できればと思って・・・」


竜から聞いた話によると今までに自分を発見できた人間はいないという。

だから無警戒で人間の目の前で居座っていたのだという。

そして人間が寝静まったところに悠々と捕食してたという。


「でも竜は契約しないと人語は話せない筈では?」


「老竜になると話せる竜が現れ始めます。交信での会話のみですが。」


どうやらジキスムントも、竜のテレパシーが聞こえるようだ。


「我ノ交信ガ聞コエタ者ハ、今マデニイナカッタガ御前達ヲ襲ワナカッタノハ別ニアル。」


「別の理由とは?」


概要を説明すると我々から不気味で不思議な不快感を感じたため、様子を見ていたという。

下手に攻撃して墓穴を掘ることはないと思ったということらしい。どうせ二人が寝付けば不快感はなくなるだろうと思い、捕食はその後でゆっくりと行えば良いと思っていたそうである。


それにしても自分を発見できた人間はいないから悠々と捕食していたということは、ジキスムントの気休めと思っていた発言が本当だったのだ。今の今まで油断しまくっていたということだ。


竜二は今後、経験者の言は聞き入れるように考えを改めると心に誓ったのである。



「どうであろう。我がマスターと契約できないか?こうやって交信出来たということは相性が良い証拠だ。お前の能力をいかんなく発揮できるだろう。」


竜使いは相性の良いランクの竜と契約しないと能力を十分に出せない。それは竜も同じである。苦労して上位のドラゴンと契約しても、それがハンデとなり二流竜使いで生涯を終える可能性もあるのだ。


「俺からもお願いします。まだまだ発展途上ですが最大限努力します!!」


竜二は深く頭を下げた。実際、目の前の竜からは威厳と覇気とおびただしい風格が感じられた。

自分の未熟さを大きくフォローしてくれるだろう。

だが、目の前の竜は頭を縦に振らなかった。


「ソレモ良イガ、儂ハ老齢ダ。能力ヲ生カセンシ、ナニヨリ長イ間パートナーハヤレソウニナイ。儂ノ方ガ明ラカニ早死ニスルダロウ。」


「・・・・・・そうですか。残念です。無茶言ってすみませんでした。」


さすがに年齢をダシにされては理論攻めは厳しかった。さすがの竜も『時間』という強敵には敵わないのだ。

老体に無理言って酷使させるのも気が引けたし、こちらを気遣った発言でもあったので無茶は言えない。


また振り出しに戻ったか。竜二は憂鬱な気分になるが、でもこの調子ならこの老竜は我々を捕食はしないだろう。今日は安眠できると前向きに考えるか。

竜二がそんなことを考えていると老ドラゴンは意外なことを言った。


「コノ子ヲ連レテ行ケ。ソシテ契約シテクレ。コノ子ニハ人間ノ世界ヲ知ラセタイ。ソレヲ条件ニオ前達ヲ見逃ソウ。」


傍らから現れたのは、小さい幼竜だった。灰色の可愛い竜である。

竜二のもとに寄ってきて抱きついてきた。

竜二の両手にすっぽり入るくらいの大きさだ。

パッチリな目と愛嬌たっぷりの顔で尻尾を振っている。


「任せてください!!必ず契約します!」


竜二からすれば、この幼竜がどれほどの竜か分からなかったが喰われるよりマシだと思った。

何よりノースエリアの竜なのだ。弱小なわけない。たとえ弱くても当面はペットとして飼うのも悪くないかな、と思っていた。それほど愛くるしかった。


「任セタゾ。」


そう言って老竜は、飛んで去って行った。


「なんとか命拾いしましたな。」


「全く。見逃してくれるだけで良かったのに竜もくれるなんて、ツイてるのかツイてないのか・・・」


「マスターに非常になついてます。竜も幼竜のころは人間の子供と同様、本能に素直です。相性が悪ければ噛みつくこともあります。この幼竜はマスターと一緒にいるのが楽しいとばかりになついてます。きっと相性が良いのでしょう。」


契約を結ぶのは卵の状態か幼竜の時が良いとされる。これは竜も成竜になると意思が強くなり、相性の悪い人間でも渋々契約をする場合があるためだ。だが卵の場合は相性が悪い人間が傍にいると孵化が大幅に遅れたり、幼竜は逃げ出したり、攻撃してきたりして相性が悪いかどうかすぐわかるとされる。

今回の場合、幼竜が自らなついてるので相性が良いのだろう。


「ねえ、この竜の種別は何か知ってる?」


竜二は、書記官の講義で竜の挿絵を見たが、どの種族も成竜で描かれており幼竜の絵は描かれてない。この幼竜もどの種族なのか分かりえないでいた。


「・・・私にも分かりかねます。竜は何回も見てますが・・・ランクさえ分かりかねます。おそらく正統系ではないのでは?」


「てことは特殊系!?」


「あくまで推測の域を出ませんが・・・」


正直ジキスムントにもこの幼竜の種族が何なのか分かりえないでいた。

もし分かれば、契約を勧めたり、別の竜を探すように進言できるのだが・・・


とにかく二人はようやく寝床についた。ジキスムントの提案でまた別の竜が現れるかもしれないから、おとり用の馬はそのままにしておこうと提案した。

さすがに馬が大きいため、巨馬を二頭も食べれば、自分たちが襲われる可能性は低いだろうというジキスムントの予想だった。竜二も賛同しそのまま寝床についた。

にしても目の前に巨馬という餌があるにも関わらず、じっと居座り続けるとは強い意志の持ち主だな。ノースエリアの竜は皆こうなのだろうか?

そう思うと悪寒が走る。俺は肉体面のみならず、精神面でも負けているのか?

コンプレックスを強める竜二であった。


翌朝、起きて見ると結果的に、それは杞憂に終わる。

竜二の青毛の馬が骨だけになっていたのだ。しっかり食べつくされたのだ。


ジキスムントの馬は奇跡的に無事だった。

さすがに竜二の大型リュックはキャッスルを出るまで担ぐのはしんどいものがある。

ジキスムントの進言に従い、危険の少ないサウスエリアまで一旦戻り、野宿することにする。

一頭しかないが、巨馬だけに二人を乗せても平然とした足取りだ。

ちなみにジキスムントはこの馬を『スノーキュリア』と名付けた。

俺は、あの馬に名前さえつけなかったな。ちょっと神妙になる竜二である。


その日の夜、焚火を起こすとジキスムントに提案した。


「今夜、現地契約してしまおう!そして名前をつけるんだ。あの馬に名前をつけられなかったから、今回は後回しにせずに命名しようと思うんだがどう思う?」


「ええ、良いと思います。契約は早い方が良いですから。少なくとも上位の竜であることに間違いはないと思います。」


傍にいる幼竜を見た。戻る途中ジキスムントが仕留めた地竜を分解し、出してみると美味しそうにもしゃもしゃ食べた。ジキスムントが地竜を食べさせたのは、この幼竜が上位の竜か確かめたかったからだそうである。竜も食物連鎖があり、上位の竜は下位の竜を捕食するそうだ。もし、この幼竜が上位の竜なら食べるのでは?と思い試してみたという。


「ようし、早速契約だ!成功しますように!」


気を高ぶらせながら刻印を利き腕の右手に持って近づけた。竜と刻印の間にまばゆい光が立ち込める。

竜二の体に電気のようなものが走り、体中が優しく光る。幼竜も仄かに光っている。

しばらくすると光は消えた。

竜二は右手の手の平を見た。しっかり薄く刻印が刻まれている。


「成功ですね。おめでとうございます。」


「成功したんだな?いやっほーーー!!」


竜二がはしゃぐ。大人げないがファンタジー小説やゲームや神話の中にしかいないドラゴンと契約できたのである。

喜びもひとしおであろう。


「まだ、終わってませんよ。名前をつけましょう。竜に命名することで絆が生まれ、竜は著しく成長します。相応しい名前をつけてあげてください。」


「そうだな・・・・ようし!今日からお前は『ラプトリア』だ。」


命名した途端、幼竜は淡い青白色に光り始め、はしゃぎながら飛び始めた。

そのまま雲の近くまで飛び、雷が当たる。


「うわ、危ない!」


痺れてすぐ落ちてくるのではと思ったがそのまま体に電気を帯び続け、どんどん成長していく。


大きくなってる!?


少しずつ確かに大きくなっている。まるで電気が体を刺激して発育を促しているかのように確実に成育していた。だが竜二は雷光が小刻みに輝いているため、途切れ途切れでしか見えなかったが。。。


やがて、雷光がなくなると竜も消えていた。


夜空に幼竜は完全に消えていた。






どうしたんだ!?何があったんだ!?






ジキスムントに聞こうとした瞬間、大きな低い羽音が聞こえた。





竜二に迫ってきて、眼前で着地する。それは竜だ。それも幼竜ではない成長した大人の竜、成竜だ。



輝きを放つダークシルバーの体にエメラルドグリーンの眼、大人のアースドラゴンと同じくらいの大きさ、竜にしては細身だが、鋭利な刃物のような強靭さをうかがわせる竜体。アースドラゴンよりも立派な角がある。

そして野生の竜には無い気品と知性と威圧感をどことなく漂わせている。



竜二は眼前に着地される時に尻もちをついていた。

突然のことで驚きのあまり口をあんぐり開けたままだ。



「私の名前はラプトリア。この時より貴方と運命を共にします。末永き絆であらんことを。」


落ち着いていて且つ、穏やかな声質の澄んだ声だった。

それは間違いなくテレパシーではなく、竜の口から発せられた誓いであった。


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