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退学寸前のギャルを助け続けていたら、ヤンデレ化して俺に依存した  作者: くまたに
第1章:同棲生活の始まり

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第8話:厨房での決戦2

「逃げてない。ボクは君たちに救済をあげたまでだ」


 振り向かずに、優向は言い放つ。

 その声は失った余裕を、取り戻しつつあった。


「俺としては、今すぐ星川をお前から解放してやりたい。だが、ここでケリをつけなければ、星川は一生救われない」

「あーあ、かっこいい。自分がヒーローとでも思ってるのか?」

「んー惜しい。星川を助けるのは、俺の生活を守るためだ」

「まさかお前たちも──」

「ははっ、ご名答。てことで、手加減はなしだ」


 和人はニッコリ笑って、一歩ずつ優向に近づく。


(俺はやるべき事を達成するまで、なにがあっても退学できない──たとえ、ダークヒーローになっても)


「なっ、なんなんだね君は──気持ちが悪い!」

「それをお前が言うか?」


 和人が優勢だった。

 言い返してやると、優向はキリリと、歯を食いしばる。

 どうやら自分のことを客観視できていないらしい。だったら教えてやるしかないな。と和人は腕を組んだ。


「お前がどうして浮気──いや、避けられたか、教えてやるよ」


 分かりやすく表情が変わった。

 そりゃあ好意を向けている女の子のことだ。知りたいに決まっている。


「お前は最初から、誰とも付き合っていない」

「…………は? 君は何を言っている」

「だったら、いつから付き合っていた?」

「それは──えぇ……」

「ほらな。全部お前の勘違いなんだよ」


 奥歯に物の挟まったような、曖昧な返答に終始した優向。

 無意識のうちに目線が泳ぎ、なんだこんなものか。と和人は物足りなさを感じていた。


(もしかして、楽しんでいるのか?)


 暴力や脅しでイキり散らしていた男が目の前でたじろぐ姿を見て、和人の胸には抱いてはいけない感情が半分顔を出した。

 人間の食事を知ってしまった動物と同じで、簡単には忘れられない愉悦。

 ドクドクと、全身の血管が激しく波打つ。


「ボク、は……くぅ」


 何かを言いかけて唇を噛んだ優向に、和人はすかさず追い討ちをかける。


「どうした? 文句があるならハッキリ言えよ」

「君は……何者だ?」


 想像の斜め上の返答に、「ん?」と小首を傾げる。アルカイックスマイルを貼り付けた顔からは、不気味さすら感じられる。


「お前を舞台から引きずり下ろす──ダークヒーロー。ってとこかな」


 優向の肩に触れながら、和人は息をするように言った。

 この状況、ヒーローはいない。お互いが悪役でしかなかった。


 さっきから何も言わずに、ただ二人のやり取りを見ていた心愛は、


(いい……かっこ、いい……)


 と、場違いな感想が、気付かぬうちに胸の中に漏れる。

 整えてないのに美しく伸びたまつ毛、余裕のある顔立ち。その全てが、心愛の心臓を早くさせた。

 今となっては、優向に蹂躙されたことすらどうでもいい。

 ただ、目の前の光景から目を離せない。

 地獄のような日々から救ってくれたのは、白馬の王子様──否、黒馬の騎士だ。しかし、心愛はこれとない渇望感で満たされていた。


「……ありえない」


 空模様が悪く、今にも雨粒が降ってきそう。

 数秒の静寂を破るかの如く、優向の震えた声が微かに響いた。


「ん? なんか言った?」

「ボクが……ッ、陰キャの君に? ……ありえない」


 負けると思ってない相手に、完膚なきまでに叩きのめされた優向は、もうこれ以上捨てる物は残っていない。

 だったら、得意の力勝負だ──


「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 優向の雄叫びが夕方の公園に響く。

 心愛はビクンと肩を揺らし、唯一、和人だけが冷静でいた。

 拳を振り上げ、考える前に振り下ろす。空振ることなく和人に命中した。

 しかし、返ってきたのは悶絶する呻き声でもなければ、膝をつく音でもない。


「おいおい。こんなもんか?」

「……く、くそぉ……」


 涼しい顔で受け止める和人。

 優向は顔をくしゃくしゃにしながら、顔ごと目を逸らした。

 相手には戦意がない。今この瞬間なくなった。にも関わらず──


「そっちが仕掛けたから、これは正当防衛だ」

「ひぎっ!? い、痛い痛い痛い痛い⋯⋯指があああぁぁぁぁ⋯⋯⋯⋯!」


 惨めな顔で、必死に和人の手を引き剥がそうとする。

 しかし、当の本人は何食わぬ顔で力を込め続けた。


「ははっ、どうだ。お前の拳は満足にフライパンを握れないかもな」


 見下すような笑み。

 小さくなっている心愛が視界に入る度、これじゃ足りない。と黒い感情がぐるぐると渦を巻く。


 必死に痛みを堪え、今にも泣き出しそうな優向。

 和人はやりすぎたか。と考えるが、すぐに開き直る。


(コイツ、星川に散々嫌なことしてたんだ。まだ足りない)


 すぐ隣に心愛がいなければ、もっとしていた。

 だが、いつまでも優向の耳が痛くなるような声を聞かせるわけにはいかないので、これくらいにしておく。


「き、君ッ……! これは正当防衛なんかじゃない。立派な傷害罪だ。警察に通報してやる……」

「これがお得意の脅しですか。いやー実際に見られて、俺は運がいいなー」


(どうしてこんな状況でも、おどけた様子でいられるんだ。絶対に頭のネジがぶっ飛んでいる。そうに違いない)


 優向は身震いすらまともにできない。

 ただ、これ以上和人と一緒にいたら自分までおかしくなる。それだけは確かだった。


「俺はただの正当防衛()()()

「いや、だから……」

「そうですね。──先生」


 優向は訳が分からず、周りを見渡す──が、それらしき影はない。

 和人がポケットからスマホを取り出して、初めて場の雰囲気は一変した。

 そんなの反則だろ。と呟きが漏れ、すかさずスマホ越しに枯れた声が響く。


『か弱い女の子の意図も汲み取れないお前に、それを言う資格はない。お前が悪いんだよ』


 きっぱりと告げられた有罪(ギルティ)

 優向は無罪(ノットギルティ)だと、言い返す言葉も選べず、その場に膝をつく。

 その肩は揺れていて、負けを悔やむどころか笑っていた。

次話、明日の20時頃更新です!

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― 新着の感想 ―
なにこいつ?女子と付き合っていた?と思っていただけの単なるナルシスト擬きだったの。おかしな性癖持ちで女子の弱みを逆手にしておもちゃにしてたわけだ
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