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退学寸前のギャルを助け続けていたら、ヤンデレ化して俺に依存した  作者: くまたに
第1章:同棲生活の始まり

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7/9

第7話:厨房での決戦1

「二日間の休日があるが──今まで通り、遊ぶだけで時間を潰さないように」


 小鳥遊の気怠そうな言葉で、一週間が終了する。

 他の生徒が気を抜く中、和人はより一層緊張を強めた。

 強引に手を引く優向と、引き攣った顔で手を引かれる心愛。

 今までと変わらない二人の光景。

 しかし、今日はもう一人──


「⋯⋯作戦開始っと」


 和人が鞄を肩にかけたその時、教壇の上でプリントを整える小鳥遊と目が合った。

 途端、スマホが音を鳴らさずに震える。

『通話』のボタンだけを押して、ポケットにしまう。


(も少ししたら楽になるから、最後の辛抱だ)


 誰にも伝わることはないが、和人は自分自身に失敗は許されないんだぞ。と鼓舞するように心の中で呟いた。

 それから一定の距離を保ったまま、廊下を歩く二人の後をピッタリと追いかける。

 一歩を踏み出すごとに、最近の心愛の様子が脳裏に蘇った。

 作り笑いすらしなくなった──辛そうな表情。放心したままでピクリとも動かなくなることもあった。

 どれも思い出すたび、胸に刺さるような苦しみが襲いかかる。

 だが、同時に和人の闘志は満たされた。


 正真正銘、優向を更生させるための作戦が、今始まった。



     ◇



 ここ数日、夜遅くまでカラオケに連れ込まれたが、性的なことは一度たりともされなかった。

 しかし、パーソナルスペースには何度も侵入された。

 まるで付き合って歴の長い、本当の彼女とデートしているかのような距離感だ。

 実際二人は付き合ってすらいないし、少なくとも心愛は優向のことを良く思わない。

 蓄積されたストレスで、おかしくなりそう──いや、既におかしくなっていた。


「星川さん。今日も、君のキャラメルのような瞳を独り占めできて幸せだよ」

「⋯⋯そう」


 最早虚ろな目からは、考えて言葉を返す気力が抜け落ちて残っていない。

 ただ、手を引かれるまま、街中をついていくだけ。

 初めは和人が助けてくれるかも。と思っていたが、冷たい態度を取ってしまい、期待は薄れていた。


「気づいてた? 今日でボクたちのスイーツよりも甘い付き合いが始まって、一週間が経ったんだよ」

「⋯⋯」

「そうやって黙ってると、君のコーヒーよりも苦い過去を晒すよ」

「や、やめっ⋯⋯」


 無理やり首輪を引く飼い主とペットのように、心愛の自由は優向に握られていた。

 弱みを知られていなければ、今頃は夜ご飯を作り始めていた頃だろう。

 しかし、最近は朝食を作るだけで、和人との約束を果たせていない。

 これじゃいつ追い出されてもおかしくない──優向をどうにかするまでは。


「せっかくの記念日だ。ケーキでも買って帰ろうかな」

「⋯⋯いいんじゃない」

「ケーキの代わりに、君のマシュマロのようなキスでも構わない。いや、そっちの方が嬉しいな──」


 優向は何を思い立ったのか、心愛の手を握ったまま走りだす。

 たどり着いたのは、人気のない公園。

 手入れの行き届いていない草木のせいで、外から中の様子が見えなくなっていた。


「やっと二人きりだね。今からメインディッシュの登場だ」


 そう言って優向は、目の前にあった小さな顎をクイっと持ち上げる。

 心愛は驚いたように「な、なに」と声を零すだけ。


「君の絶望は、まるで安物のワインだね。酸っぱくて見ていられない。もっと熟成させないと……ねぇ?」


 初めて屋上で話した時のような、睨んだ目も、強気なこと言う口も、今はなかった。


(い、嫌だ……抵抗しないと、き、キスされちゃう……)


 心の中では逆らいたくても、手が震えて何もできない。

 う〜〜っと、唇を前に出した優向の顔が近づいてくる。

 恐怖からか、それともキスを受け入れることにしたのか、心愛はギュッと目を瞑った。その時だった──


「お前高校生なんだから、ワイン飲んだことないだろ」


 鼻で笑うような声に、優向は動きを止める。

 そして、見られたくないところを見られたと、言わんばかりの表情で声のした方へ振り向いた。

 そこにいたのは他でもない──椎原和人だ。

 たったの一人だが、少しも負ける気がしない。


「君は確か⋯⋯誰だね?」

「和人だ! 椎原和人!」


(まさかそこまで認知されていないなんてな)


 優向が隙を見せる瞬間を、今か今かと待ちわびていた。

 しかし、先制攻撃は失敗し、自分の方が先に傷つくこととなる。


「初めて聞いた名前。例えるならそうだな──食用菊、阿房宮(あぼうきゅう)のようだ」

「あぼう⋯⋯なんだって?」

「成績1位であっても知らないか。君はいつも教室で一人。刺身のパックに入っている──小さな黄色い花のようだってことだよ」

「また独特な比喩だな。お前と話していると、主菜に辿り着く前に胃もたれしてしまいそうだよ」


 ここ数日、優向について色々と調べていたが、ここまでふざけたような奴だってことは、今初めて知った。

 しかし、主導権を渡すものかと、和人も対抗する。


「それで──どうして声をかけた? ボクはこの、至高の食材で作られたプリンのような、愛しい彼女との時間を過ごしている。それを邪魔すると言うなら、無事に帰れると思わないことだ」

「断る」


 なぜなら、優向の足元には、へにゃりと力が抜けた心愛が涙を浮かべているからだ。

 少しでも早く、この変態野郎から同居人を救わなければならない。


「そうやって星川に、元カノを重ねるのはよくない」

「それを……どこで聞いた?」

「はっ──さあな」


 反撃はまだ始まったばかり。

 言葉が返ってくる前に、追い打ちを仕掛ける。


「付き合っていた子に浮気されたんだろ? なのに、すぐに別の人とイチャイチャするのはダメだろ」

「黙れ──君にボクの気持ちがわかるのか?」

「いいや。わからないね」

「だったら、人の気持ちも考えずに物を言うな。君の性格はバナナのようにひん曲がっている」

「安田。お前は星川の気持ちを考えたことがあるか?」

「⋯⋯」


 優向はようやく気づいたようだ。

 口はポカンと開いたまま、ぐうの音も出ない。

 ただ、助けを求めるように、視線を下げる。

 心愛は無言のまま首を横に振った。

 そこからは、絶対的な拒絶が見える。


「そんなはずが⋯⋯。そこまで調べたのか」


 やがて行き場をなくなった感情は、こうなった張本人──和人に向けられた。

 優向は歯を食いしばり、拳を握り──緩めた。


「お前が払ったのは、捨てられるのが怖かったからだろ?」

「違う……ボクは、ちゃんと払って──」


 優向は瞬きを忘れる。

 声は震え、自分でも何が何だかわからなくなりそうだった。


「もういい」


 優向は視線を逸らす──心愛から。


「今日は……ここまでだ」


 呆気なく優向は背を向ける。

 そして、公園から去ろうとした。


「──逃げるな」


 よく通る声が響いた。

 変な比喩すら忘れた男を、小さく嗤う。

 優向の肩が一瞬揺れ、間を空けずに足が止まった。

次話、明日の20時頃更新です!

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