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【第1章完結】退学寸前の最下位ギャルと同棲することになった〜成績1位の俺が毎月救っていたら、いつの間にか重い女になってた〜  作者: くまたに
第1章:同棲生活の始まり

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第10話:同じ時間を食べる夜

 日が暮れた事もあり、優向を無理矢理説得して帰らせた。

 家に着いた頃には、和人も心愛も心身共にヘトヘト。こんな日はする事が決まっている。


「出前のピザ頼むけど、どれがいい?」


 スマホでピザ屋のサイトを開いて、ソファで隣に座る心愛に画面を見せた。

 マルゲリータやクアトロ・フォルマッジなど、目移りするほど種類が豊富だ。一度の注文では到底味わい尽くせない。


「で、出前……もしかして、私の事気遣ってくれてる? 大丈夫。まだ元気だから、今から作るよ……!」

「そう? 凄く疲れてるように見えるけど」

「これは……そうだ。気のせいだよ!」

「わかった。元気なんだな」

「だから私が──」

「じゃあ今日は安田から解放されたことへの、パーティにしよう」


 何がなんでも心愛に無理をさせたくなかった。

 自分では「元気元気」と言い張っているが、傍から見れば今にも死んでしまうんじゃないか。と思うくらいゲッソリとしている。

 強引にでもピザの気分にしてやろうと、和人はスマホの画面をスクロールした。


「お、これ美味しそう。やっぱりピザはチーズだけの一択だよな」

「……マルゲリータでしょ」

「ん?」

「ピザと言ったらマルゲリータ。それ以外は、全部ピザじゃないし!」

「ピザ界隈に敵作るぞ。それ……」

「いいの。それよりもマルゲリータは──」


 和人の発言が、心愛の中に眠っていた『こだわり』を刺激した。

 今までにないくらい生き生きとした様子で語る心愛。

「ならマルゲリータを頼むか?」と言う和人に、食い気味に「うん! そうしよう!」と声を被せた。

 和人はあらかじめチャージしてあったポイントで会計を済ませる。使えるお金が限られている以上、ポイ活は生きていく上で賢い選択だ。


「知る者は富み、知らざる者は貧す……か。まさにこの事だな」


 画面に表示された『当選! 50%還元!』という文字を見て小さく頷いた。

 頼んだピザが来る前に、和人は机に食器を並べる。

 少しでも心愛には休んで欲しいので、心愛が「私もするよ」と立ち上がると、すぐに和人は首を横に振った。


「これくらい俺がするよ」

「でも……」

「ほら。もう終わった」


 話しながらも手を動かしていたこともあり、机の上はあっという間に食事モードになった。

 いつもはダイニングテーブルだが、今日くらいはソファの前のテーブルでも罰は当たらないはず。

 仕上げに氷の入ったグラスにコーラを注いで完璧だ。


 予定通りに届いたピザを机の真ん中に広げ、二人、肩を並べて床に座る。

 ダイニングテーブルと比べると小さいこともあり、すぐ横から心愛の息遣いが聞こえ、和人は反対側に避難しようかと迷う。

 しかし、今更そんな事をしたら印象が悪いのでやめておいた。


「それでは、いただきます!」

「い、いただきます!」


 和人に続いて、心愛も合掌する。

 八等分に切られたマルゲリータを、和人は大きな口で頬張る。

 チーズだけのピザ一択というのは譲れないが、トマトの酸味と濃厚なチーズが絶妙なハーモニーを生み出している。

 本格的なピザということもあり、外側はカリッとしていながらも、中はふっくらと小麦の香りがする生地だった。

 キンキンに冷えたコーラで胃袋に流し込む。それだけでも満足だが、目の前にはまだまだある。

 和人が二つ目に手を伸ばし、隣の心愛も真似するように手に取った。


「ん〜〜〜〜〜っ! おいしぃ!」

「それな。大きいのにしたけど、すぐになくなりそうだな」


 ちなみに買ったのはLサイズ。3〜4人前らしいが、瞬く間に色鮮やかなピザが減って、ピザ箱の面積が広がる。


「ごちそうさまでした」


 と、手を合わせる二人の表情は柔らかく、目を細めていた。


「──ぷはッ。やっぱりピザにはコーラだよな。星川もまだいるか?」

「うん。ちょうだい!」


 和人は二人分のグラスに、冷蔵庫から取り出したコーラを注ぐ。

 パチパチと弾ける炭酸。

 目線を上げると、「んんーッ!」と背筋を伸ばす心愛。

 ここ数日続いた、寂しい時間はなくなったんだなと、口の端が吊り上がる。

 心愛と一緒にした食事の回数は少ないが、誰かと食べる美味しさを知ってしまった以上、一人で食べるご飯は味が霞んでいるように感じた。


「な、なに……私の顔になにかついてる?」


 ジッと見つめられていることに気づき、恐る恐る発せられた心愛の声。

 寂しい思いをさせられた分、少しだけ仕返ししてやろうと、悪い感情が頭を過ぎる。


「ああ、ついてる。トマトソースが口の周りにベッタリと」

「嘘。最悪」


 心愛は慌てて手鏡を取り出して確かめる。

 その様子がおかしくて、笑わずにはいられなかった。


「なにもついてないよー?」

「──ぷはっ! ……真に受けすぎ……ははっ」

「もしかして……騙したなー?」


(ヤバっ、めっちゃ怒ってないか?)


 何気ないつもりで言ったはずが、逆鱗に触れたのか心愛はジト目を向けている。

 プクーっと頬を膨らませて、心愛はコーラを手に持つ和人に迫る。

 心做しか、その足音がいつもより大きいように和人には聞こえた。


「ま、待て! 俺は今暴れると床が大変なことに……」


 顔を引き攣らせながらも、どうにか冷静さだけは残っていた。

 心愛はピタッと止まり、少し考えた後、隣にあったダイニングテーブルを指差す。

 言葉はないが、その意図を汲み取った和人は、二人分のグラスを置く。

 すると、心愛はまた距離を詰めてくる。

 全部自業自得なので、その場から逃げずに、ただ目を瞑る和人。

 足音だけがそっと近づいてきた。


(数秒前の俺、マジで何してんだよ……!)


 もう遅いと理解していながらも、後悔だけが胸を満たした。せっかく仲良く食事を共にしたのに、また振り出しからか。と。

 しかし心愛から向けられたのは、馬鹿にするなと言う叱咤でもなく、感情にかられた一撃でもない──優しく包み込む、暖かな抱擁だった。

 和人の胸板に心愛の小さな頭が触れ、腰には手が回される。


「…………え?」

「見ないで。そのまま目を瞑ってて」


 理解が追いつかず、身動きが取れないまま時間だけが過ぎる。

 学校帰りの制服越しに触れる柔らかな感触に、頭が真っ白になる。


「……ありがと。助けに来てくれて、ほんとにありがと……」


 心から告げられたその言葉に、何とも言えない胸の痛みが和人を襲う。

 心愛の心が壊れる前に、助けれて本当によかった。という思いでいっぱいだった。


(今回は……助けられたんだ……)


 無意識のうちに張り詰めていた気持ちが解け、勢い余って目頭が熱くなる。

 和人も、心愛の細い体に手を回す。

 お互いの体温を確かめ合うように、ずっと。


 途中で理性が戻ってきた和人の中では、何とも言えない照れくささが毎秒のように増える。

 ついに耐えられなくなり、心愛から離れた。


「あっ……」


 大切なものを取り上げられたような、寂しげな声。甘えるように潤んだ眼差し。

 どちらも和人を追い詰める。

 けれど、それは束の間。目線が絡み合い、ようやく自分のしていることに気がついた心愛は、慌てて和人から離れる。

 そのまま何も言わずに、一目散に自室に飛び込んだ。


「あっ、コーラ忘れてる……!」


 ふわふわと妙な心地の気持ちを律するために、敢えて声に出す。

 しかし、先程の心愛の瞳がふと頭に浮かび、カァーッと顔だけではなく、全身が熱くなる。

 自分用に注いだコーラを一口で飲み干し、誤魔化すようにテレビをつける。


 気づいた時には、心愛のためにと注いだコーラは、机から消えていた。

次話、明日の20時頃更新です!

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― 新着の感想 ―
なんかいい感じになってんな~ これから二人の間に安田が割り込んでくるんだよね~  星川には関わるな、てことは星川を差し置いて和人に纏わりつく、てことだよね
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