59 昼下がりの近所
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
昼下がりの新鮮な近所の風景。へえ、こんなににぎわっていたんだ。試しに、いつも食料品を買いに行っているスーパーまで行ってみた。どこからか、子どもたちのにぎやかな声が聞こえる。そういえば、スーパーの周辺に保育園があるということに今の今まですっかり気が付かずにいた。きゃっきゃと追いかけっこをしている子どもが柵越しに見える。みんな、元気で幸せそうでいいなあ……。私にはそんな時期はなかった。わいわいみんなが遊んでいる横で、いつもしょんぼりうつむいているだけだった。今、こうして子どもたちが幸せそうにしているのを見て、私はいつ、どこで間違ってしまったのだろうか、と自問自答する。三つ子の魂百までとはよく言うのだけれど、私は生まれつき、決して内側でぬくぬくと育つことを許されない運命にあったのかもしれない。私はこの先も、ずっと周縁でなすすべもなく、孤独の時間を過ごさざるを得ないのだろうか……。
また暗い気持ちに襲われながらとぼとぼ歩いていると、突然「わんわんわん」という鋭い吠え声で我に返った。ともすると踏んでしまいそうなくらいの小さな犬だ。チワワだろうか。小さな割にはとても気が強そうだ。
「こら、落ち着きなさい。」
飼い主は必死に犬を制止しようとしている。私は、そのままにしていると噛みつかれかねないので、犬急いでその場を立ち去った。
犬までもが、こんな調子だ。やはり、私はこの世に存在している限り、とことん疎まれ、蔑まれるべき存在になってしまっているようだ。私は情けなさとやるせなさでいっぱいになってしまっていた。
スーパーに着く。この時間のスーパーはどこかのんびりした空気が漂う。それもそうだ、まだ昼時で、シニアや主婦の客ばかりだからだ。これがいつも私の行く閉店間際の時間帯ともなると、目に深い隈のできたサラリーマンたちが重い足取りで割引のお惣菜を手に取っているのだから、大違いだ。
夜とは違って、並んでいる野菜やお惣菜も種類が多い。その代わり、割引のシールはまだ貼られていない。いつもよりちょっと高めだが、品ぞろえが豊富なので、この機会にせっかくだから買わなくては、という気持ちが働く。野菜を手当たり次第に買い物かごに放り込み、お菓子のコーナーへと向かう。いつもはだいたい素通りしてしまうことも多いのだが、今日は何か買おうと思った。
「ねえ、チョコ買ってよぉー。」
3歳くらいだろうか、まだ幼稚園保育園には通っていなさそうな子どもが親に駄々をこねている。昔から子どもが駄々をこねるところを目にすると、私はびくびくしてしまう。こんな時、私の親なら、「黙れ」と一喝して、なおも泣きわめくなら、そのまんま置き去りにしかねなかった。私は決してわがままを言うことを許されず、大人になってしまったのだ。
「はいはい、じゃあ、1個だけだよ?」
困った親は子どもにすぐに妥協してチョコを買い物かごに入れる。こんなにあっさりと今どきの親は子どもの言うことをきいてくれるのか。私は呆気にとられていた。




