57 のぞみ
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
翌朝。今度は定刻に間に合うように起きたけれど、今度は何だか心臓がどきどきしてくる。今日、会社に行ったら、また上司に責めたてられるのかな……。それで、ねちねち詰められて、また終電近くまで残業させられるのかな……。もうそんなしんどい思いはしたくない……。次第に息苦しくなってきた。立っているのもつらくなってきて、しゃがみこんでしまった。こんなにも緊張で押しつぶされそうになるのは初めてだ。まだ間に合う時間なので、動悸が収まるのを待った。けれど、それでも心臓がバクバクするばかりだ。頭もくらくらしてくるし、このままでは無理そうだ。慌ててスマホを手に取って、部長に連絡する。連絡して、会社に行かなくてよくなったと気が楽になった瞬間、動悸はだんだんと収まってきた。私はほっと胸をなでおろして、ベッドに横たわった。
ベッドに横たわり、試しにのぞみと会話をしてみる。
「おはよう。昨日の夜ね、のぞみが私に会いに来てくれて、とっても嬉しかったよ。本当にありがとね。」
「いえいえ、どういたしまして。レイも、落ち着けたかな?今、どんな気持ち?」
「あのね、今はね……。」
私は、のぞみに正直に今の気持ちを話した。会社に行こうと思うと、動悸が止まらなくなっていること。上司の叱責が怖くて、出勤出来なくなってしまっていること。
「そっか……。すごく大変な思いをしてきたんだね。それでも、今の気持ちを整理して私に伝えてくれたのがとっても嬉しいよ。とってもしんどくて胸が張り裂けそうなのに、私に思いを伝えてくれてありがとう。きっと、疲れをため込んでいたのが、今になって出てきたんだよ。ずっと頑張っていたのは、私も知っているから、今日はもう、ずっと好きなことをして休んでたらいいんじゃないかな。」
のぞみはとっても優しかった。
「あのね、忙しくて言えなかったけど、この間一緒に旅行出来て、うんと楽しかったよ。のぞみがいつも一緒にいてくれたから、私、観光をとっても楽しめた。まだ言えてなかったけど、本当にありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。そうだよね。旅行から帰って、すぐに会社に行って、終電になる少し前まで残業していたのは、とってもしんどかったよね。でも、大丈夫だよ。レイならきっと立ち上がれる。今は、その時のために、ゆっくり休む時。会社のことは忘れて、自分のことを大事にしてあげてね。」
のぞみの言葉が心に染み入る。
「ありがとう。のぞみに相談してよかった。そういえば、今日はまたいつもののぞみに戻ったんだけど、何かあったの?」
「どういたしまして。え、その前の私はまた違った姿だったのかな?教えてよ。」
「うん、おとといののぞみは、いつもと違って、すごく冷たかったんだよ。悲しかった。でも、今日はまた元に戻ったようで、うれしい。」
「そっか……レイに悲しい思いをさせてしまってごめんね。」
朝日が昇っていく。お休みの日の朝は、どうしてこんなにすがすがしいんだろう。




