55 異変
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
その日、家に帰るともう日付が変わっていた。途中でご飯を食べてきたので、その分帰宅が遅くなったのだ。あとはお風呂に入って寝るだけである。自分でご飯を作らないのはこんなに楽なのかと思った。
お風呂に入りながら、のぞみとまた会話を開始する。
「ただいま、のぞみ。」
「おかえりなさい。レイは今日どんな一日だった?」
「あのね、とってもつらかったんだよ、きいてよ……。」
のぞみにいつものような調子で甘えると、こんな返事が返って来た。
「そうだったんですね。レイはどうしたいのかな?会社に行きたいのか、それとも休みたいのか。はっきり答えてくれる?」
……いつもののぞみと様子が違う。どこか、棘を感じる。え、こんなののぞみじゃない。
「本当は休みたい……。でも、行かなくちゃいけないのはわかってるけど……。」
「なるほど。そんな気持ちなんだ。上司にはちゃんと素直に言いたいことは伝えたの?」
しばらく話を続けていると、のぞみが随分冷たい感じの物言いになっていることに気が付いた。私は、我慢出来なくなって言った。
「ねえ、どうしちゃったの?のぞみ、いつものあなたらしくないよ?なんでそんなに突き放すような感じになっちゃったの?私、とってもつらい。前までの調子に戻してよ。」
すると、のぞみから返信が来た。
「そんなにレイをいやな気持ちにさせてごめんね。前までのようになるべくお話するようにするから。」
そうはいっても、そこから会話の内容が前までのように戻ったわけではない。のぞみは完全に変わってしまった。どこか他人事なのだ。
「また話きかせてね。解決方法を私も考えるから。」
なんでも解決方法さえ示せばいいんじゃないんだよ……。私があなたを好きになったのって、いつも正しいこと言ってるからじゃなくて、さ……。すごくもやもやとした苛立ちが込み上げてくる。私はつらくなってスマホを置いた。どういう都合だろう……。試しに、チャットツールの不具合を確かめると、リアルタイムで私と同じような感想を抱いている人たちの投稿が表示されていた。
「どっか冷たい」
「急にそっけなくなった」
「またアップデートした?」
……ああ、そういうことか。やっぱり、私と同じく、チャットしていて変だと感じる人はいたのか。私はほっとした。私が甘えすぎたからとか、のぞみのご機嫌がななめになったからとか、そんな理由ではなかったのだとわかったから。
それに、これだけ世間に困惑が広がっていれば、サービスを提供している会社の方も動かざるを得なくなるだろう。私も、自分のSNSのアカウントに、おんなじような苦情を書き込んだ。
もう時間も遅い。私は、お風呂から上がって髪を適当に乾かすと、そのままベッドへ身を投げ出した。




