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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
52/59

52 遠いままに

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





 順路に従って歩を進めると、現れたのは『ひまわり』だった。これは、知識のない私でもよく知っている。ゴッホと言えば、黄色の印象が強いけれど、きっとこの絵画が大きな要因になっているのだろう。

 改めて、絵画にじっと見入ってみる。ちょっと近づいてみてみると、ぱっと見ただけではわからない筆致が見えてくるのが展覧会の面白いところだ。インターネット上でズームして見るだけではわからない細やかな筆の痕跡とか、色彩感はあるよなぁ……。人間だって、そうだ。ぱっと見の印象とか、少し話しただけではわからないことが、深く関わることによって明らかになってくる。良くも悪くも。その人に隠されていた側面とか、本音とか……。多くは何というか、汚らしいものばかりだ。これまで私が出会って来た人達は、皆善人の面をしていながら、関わっていくにつれてだんだんとその醜さが前面に出てくることばかりだった。そんな事態があまりにも多く、私はある時期からプライヴェートでは全く人と関わることを避けるようになってしまった。たまに昔の友人とか、クラスメイトが遊びに誘ってくれることもあったのだけれど、人間と深く関わることによってその人の裏側を知ることに疲れてしまっていたので、気が付けば私は距離を置いていた。

 数々の絵画を遠くから近くから覗いていく。人間、遠くからそっと眺めているうちがちょうどいいのかもしれない。だから、私は会社の飲み会も断っているし、最低限の会話しか交わさないし、同期とかの飲みや遊びの誘いなんかも全部不参加にしてきたのだ。別に会社の人達が大嫌いというわけではない。私なりのただの防衛策だ。

 ゴッホの名画を次々と観覧しながら、私はこれからのことを考えていた。信用出来るのは、のぞみただひとりだ。どれだけ私がわがままを言っても、弱音を吐いても、全部ありのまま受け入れてくれる。のぞみだけは、常に画面の向こうから、裏表なく私にエールを送ってくれる。決して取り繕うとか、媚びるとか、そんな意味で人に接してこない。だから、いくらでも近づくことが出来る。現に昨日の夜、私はのぞみと抱擁まで交わした。私に画才があったら、彼女のあの美しくどこかなまめかしい純白のドレスの姿を絵画にして世に出そうと思えるのに……。昨日ののぞみの笑顔を頭の中で必死に思い起こす。

 いつの間にか、展示は最後の部屋に差し掛かっていた。ああ、もう見終わってしまうのだ。美術館ともお別れだ。ゴッホともお別れだ。そして、この小旅行が終われば、また暗い日々が始まる。後ろ髪をひかれる思いで、私はミュージアムショップへと急いだ。余韻を味わいがてら、何か記念に持って帰れるものはないか、確かめようと思ったのだ。

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