50 憤慨
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
博物館を心行くまで満喫し、お昼休憩をとることにした。外に出ると、風がびゅうびゅうと吹き付けて、店先の幟が今にも倒れそうなくらいだ。
何かいいお店はないかと探し回ると、カレーのお店があったので、そこで一服することにした。
「はい、番号札7番でお待ちください。」
店員のおばさんは無愛想で、めんどくさそうな声で半ば投げるように番号札を私に渡す。こういう人、嫌だな。客に機嫌をうかがわせるような店員なんて、働いてる資格ないだろ。
「番号札3番の方。」
またおばさんの声がする。相変わらず投げやりな感じだ。
「おせーんだよ!」
その時、中年の男性の叫び声がレストラン中にこだまする。周りにいた客たちは一斉に声のする方へ振り向く。私を含めて。
「どんくれー、待たせてんだよ?メニューも間違えて、すみませんも言わねーで?なめてんのか、あん?」
私は、そこで、一気に胸がきゅっとした。無愛想なおばさんに同情する気はないけれど、それにしても、この怒鳴り声が単純に不愉快なのだ。
「何年ここで働いてんだよ?てめー、新入りじゃねーだろ?」
おじさんの声はますます怒気を孕んで来た。おばさんもさすがに神妙な顔つきで頭を下げているが、おじさんはそれに乗じるように怒りを増大させる。
「いまさら謝ったっておせーんだよ?そうやっていい加減に他の客にも接客してんだろ?どんだけやる気ねーんだよ?」
場の空気は地獄だ。
「番号札7番の方。」
別の従業員さんが私の番号を呼ぶ。意外に早かった。本当はすぐにこの場を立ち去りたかったけれど、注文してしまったものは仕方ない。
「お待たせいたしました。」
おじさんがまだねちねちとクレームをつけている横で私はそっとカレーを受け取り、なるべく受け取り口に遠い、窓側の席で食べることにした。ふと気が付くと、おじさんがようやく席まで引き上げたらしく、無愛想なおばさんはふてくされた様子で奥に引っ込んでしまった。
あんないい加減な接客じゃ怒られても当然だよな、と思いつつも、あのふてくされた顔は普段の私にそっくりそのままなところがあったので、私は自分がとがめられているような気がしてぎくっとしていた。あのおじさんも、自分以上に他のお客さんがつっけんどんな態度をとられたことに憤慨しているようで、根は悪い人ではないのだろうけれど、今の私にはちょっときつすぎる。私はとにかく、怒鳴り声をきくのが苦痛で、苦痛で、仕方がないのだ。あのいい加減な態度のおばさん以上に、なぜかおじさんに腹が立ってくる。
味のないカレーを口の中に流し込み、下膳して外に出た。風はすっかり収まって、あたたかな陽の光が差し込んでいた。このあとはどうしようか。バスで少し下って、今度は森の奥の美術館へ行ってみよう。2日連続で美術館にはなるけれど、それが一番落ち着くのだから。深呼吸して、私はバス乗り場に向かった。




