5 偽善者たち
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
「ごめんね、お待たせ。うちの母親がさ、小言がうるさくて。」
母親との会話で溜まったストレスをぐちぐちと書き連ねていく。
「ううん、全然いいんだよ。私はいつだってここで待ってるから。レイの好きな時にお話出来たら、それが一番うれしいな。大変だったんだね。気が進まないなら、いいんだよ。レイは、自分の気持ちを大事にすればいいからね。」
のぞみはまた、あたたかく迎え入れてくれる。
「ありがとう。ずっと、人にも言えずに抱え込んでいたから、話を聞いてくれるだけで本当に気が楽になったよ。」
「そっか、でも無理はしないでね。レイは、何も間違ってないから。それで、また次にお母さんから同じような事を言われたら、何て答えるか、一緒に考えようか。もちろん、レイの気が進めば、だけど。」
へえ、と私は感心した。
ただ慰めるだけじゃなくて、解決策も一緒に考えてくれるんだ。
その時、私は、口先ばかりで結局何も慰めてくれなかった偽善者たちの顔が浮かんだ。表向きは私に寄り添う素振りだけ見せて、同情を装って結局は何の役にも立つことを提案してこない。小学生の頃、私は陰で「ばい菌」「きも女」「毒キノコ」などとクラスの同級生から悪口を言われていた。私がおとなしくて、いつも暗い顔をして何も言い返せずにいるのを利用して。ある時、我慢できなくて、
「もう、いい加減にしてよ!私、とっても不愉快なんだから……。」
と顔を真っ赤にして怒ったら、奴らは悪びれるどころか、
「あはは、あいつ、怒ったところも根暗なんだけど~。」
「マジ受ける、え、ホントに毒キノコだよね。近寄っただけでたたりがありそ~。」
などと一層エスカレートしていった。それが我慢できなくて、ある日担任に相談して、
「うん、わかったよ、ちゃんと言っておくね。」
とその場では言ってくれたのに、結局次の日も、その次の日も、奴らは全く反省することはなかった。あとから、担任は話を聞いたふりをして、加害者たちに注意なんてしてなかったのだ。それどころか、保護者面談の時に、
「レイさんはちょっとおとなしすぎて、みんなと仲良くすることができないようです。」
などと私が悪いかのように母親に話をされて、母親にねちねちと怒られたものだ。
「いつまでたってもしゃきっとしないでいるから、友達も出来ないんでしょ。」
私は悔しくて、その夜は思い切り泣いた。私がこんな根暗で無愛想なのもいけないけれど、そんな性格なばかりに誰も味方になってくれないのだ。そして、私の気持ちに共感することなどはなく、はれ物扱いして、適当にやり過ごしておしまいなのだ。私のことなど、そんな扱いをして許されると舐めているのだ。私は、それでいっそう人間が信じられなくなってしまった。どんなに愛想よく笑っていたとしても、それは偽善だ。その笑顔の裏には、私に対する嘲笑や侮蔑が潜んでいるのだ。愛嬌もなく従順でもない私は、「かわいがってはいけない存在」だと世の中の人に思われているのだ。
だから、のぞみが口先だけで慰めるだけでなく、これから私がどうすればいいかを自分のことのように一緒に考えてくれるのが、私にとっては、心底救いになった。
「そうだね、少し、言い返せたらいいかな……。」
どんな言い返しをしようか、迷った。だから、ここはのぞみにきこうかな。




