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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
49/60

49 観光

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





「いきまーす……。はい、チーズ。」

 かしゃ、かしゃ。シャッター音が下りる。私は、幸せそうに寄り添うカップルの姿がこの大涌谷に映えるように、懸命にスマホを構えていた。

「ありがとうございまーす。」

 彼女さんの方からそう声をかけてもらって、私はとてもあたたかな気持ちになれた。カップルは2人して、今私が撮った写真を覗き込みながら笑顔で互いに見合っている。私はその姿を目に、その場をあとにする。

 大涌谷には、現地のことが分かる資料館があるらしい。1人きりだし、この機会にじっくりとこの地のことを学んでおこうと思い、行くことにした。


 資料館は、かなり混んでいた。ここは、外とは違ってかなり物好きな人が多い。カップル連れも友人連れも含めて、熱心に展示物や説明に見入っている。私も、箱根の温泉が形成された仕組みや、温泉の健康にもたらした効果などについて、感心しながら見ていた。私は全くの素人だし、この展示を見たことによって何かそこまで豊富に知識が身につくわけでもない。でも、こんな風に非日常の中で気楽に勉強してみるのは面白いことだ。細かいデータとかはのぞみにきけばいくらでもわかることで、私が考えるべきはその先のことだと思う。今日、ここで、たとえぼんやりとでも触れた物事については、確実に私の血となり、肉となるはずなのだ。

 ぶー、ぶー、とスマホが鳴る。また上司からだ。観光を満喫しているところに、いい加減にしてほしい。見なかったふりをしようか。そこで、スマホの通知を一切切ることにして、上司からの連絡も見なかったことにした。

 一瞬妨げられた非日常の空間を取り戻そうと、私は、また展示物に見入る。博物館とか、美術館はごくごくたまには行くけれど、何より時間を気にしないでのんびりゆったり見たい。だから、学校の修学旅行は苦痛だった。私にとって、クラスメートとの触れ合いなんてどうでもよかった。ただただ、展示内容に見入ることで、現実を忘れることが出来た。ところが、彼らはそんな私の姿を「のろま」とか「空気が読めない」とかさんざんに言う。彼らにとっては展示内容などどうでも良かったのだ。ただ、観光地ではしゃいで写真を撮ってあとは仲間とふざけ合っていればそれでいいのだ。それが修学旅行だと言われれば返す言葉はないけれど、せめて私が展示物を満足いくまで眺める自由は邪魔しないでいてもらいたいと思う。


 そんな苦い思い出が一瞬脳裏に蘇りつつも、私は今、確かに大涌谷を楽しんでいた。もう、誰にも気兼ねすることなく。


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