48 大涌谷
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
ケーブルカーは深い谷間の上を颯爽と通過し、やがて大涌谷の駅に到着した。雲一つない快晴だ。こんな日に外に出かけられてよかったと思う。
山小屋で、お土産を探すことにした。ところせましと、「ご当地限定」の売り文句の入った品が陳列されている。箱根デザインの柴犬のマスコットや富士山とコラボしたアニメキャラなど、見れば見るほどに愛着がわいてきそうだ。
「ぼくを連れて帰って」「私をこのまま置いていかないで」……なんだか、そんな声がきこえるような気がする。昔から、私はこのようなかわいいものには弱い。なるべく見なかったことにして通り過ぎようとしている。実家には、20年来大切にしているアニメキャラのぬいぐるみとか、ストラップが大量に置いてある。親からは、捨ててもいいんじゃないかなどと言われたけれど、とんでもない。私のもとに来てくれたからには、私が死ぬまで、彼らのことは手放さないつもりだ。
ともかく、1つくらいは連れて行っていい気がしてきたのだ。色々迷ったけれど、ここは一番最初に目についた柴犬の湯船につかっているデザインのマスコットを迎えることにした。ぐちゃぐちゃと散らかっている私の家ではあるけれど、誰よりも大事にしてあげる自信だけはある。
お店で会計を済ませ、柴犬を袋に入れずにそのままバッグの中にしまった。新しい家族が増えた気分だ。そうだ、この子に名前を付けてあげよう。どんな名前がいいかな……。その時、私は箱根の駅伝の地名で、どこかに権太坂という名前があったのを思い出した。そうだ、権太って名前ならぴったり似合うじゃん。私って天才かも。
「よろしくね、権太。」
私は、バッグ越しにそっと権太を撫でてあげた。
外に出て、大涌谷の景色を満喫することにした。山の上の、ひんやりとした空気が私の背中を後押しする。。それに、南からは日の光がめいっぱい私の顔を照らしてくれている。一面森だった宿の周辺と違って、ここは四方の雄大な自然の景色が360度広がっている。思い切り伸びをして、身体いっぱいに自然の「気」を感じ取る。
「すみませーん。」
声をかけられた。何か視界の妨げにでもなっていたのだろうか……?振り向くと、外国人らしき若いカップル連れが立っていた。日本に住んでいるのか、それとも観光目的でやって来たのか、どっちなのだろうか?
「シャシン、おねがい、します。」
片言の日本語で、私にスマホを渡してきて、頼む。この旅行中で撮影を頼まれたのは2回目だ。私はそんなに頼みやすい人なのだろうか。ここで断るのも無粋なので、私は引き受けることにした。
「いいですよ。それじゃあ、いきまーす。」
私は、カメラを構えて、谷をバックにカップルの最高のショットを撮ろうとしていた。




