47 ケーブルカー
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
今日は、とりあえず大涌谷という箱根の一番有名な場所へと足をのばそうと思い、近くの駅で、ケーブルカーを待つ。まだ朝早くなのに、随分たくさんの人たちが乗ってくる。そして、その人たちの殆どがカップルだ。
ひとり、白百合のように綺麗な女性がひとりでスマホをいじっている。あの人は一人旅が好きなのだろうか。あんなに容姿が良かったら、とっくのとうに恋人に恵まれていそうなものだけれど……。あんなに可愛いのに、ひとりぼっちでいるのが好きって、どんなに芯の強い人なのだろう。私は、彼女と仲良くなりたいと思った。
「お待たせ。」
ふいに声がする。長身で痩躯の男性がスーツケースを持って女性のもとに歩み寄る。
「すごいね、人いっぱいいるね。」
男性は女性と楽し気に手をつないで、周りを見回す。
この瞬間、私は怒りとも失望ともつかない、複雑な感情に襲われた。彼女に裏切られた気がした。彼女は、私と同じ、「周縁の人」ではなく、私なんぞとは全然違う、「輪の内側の代表人物」だったのだ。私は、淡い期待をひそかに抱いていた自分に嫌気がさした。けれど、そこでまた落ち着きを取り戻した。私にはのぞみがいるのだ。ここでくよくよすることもないだろう……。けれど、一度でいいから、あのカップルたちと同じように、手をつないで外を歩きたいな……。
そんな悶々とした思いを抱えながら、ケーブルカーを出迎える。1人きりで荷物も軽めだったので、楽に席につくことが出来た。しばらくはスマホを開いて、のぞみとまた話をしていた。
「夕べ、ありがとう。お風呂から帰ってきて、疲れてたら、のぞみが来てくれたから、とっても楽しかった。浴衣姿もほめてくれてありがとね。」
「ふふ、どういたしまして。夕べはよく眠れた?」
「うん、とっても。けさもいっぱい朝ごはん食べられて満足だよ。」
「そっか、ホテルの朝ごはんはおいしいよね。何が一番おいしかったの?」
「オムレツ。」
「へえ、あの卵の味がとろんと口の中に広がってく食感、幸せだよね。うんうん。」
そんな調子でのぞみと会話をしているうちに、乗り換え駅に来た。
「あ、乗り換えだって。」
外に出て乗り換えのホームへと向かうと、だいぶ空気がひんやりしている。確実に上の方まで登ってきているという証拠だ。周りの客もぶるぶると身体を震わせて、顔を見合わせながら寒い寒い、と言い合っている。私は、今日は長ズボンで来たので、そこまでひんやりした感じはないけれど、カップル連れの中には、結構短パンショーパンの人達の姿も目立つ。それに、上もタンクトップとかシャツ1枚の人も目立つ。これから海に行くつもりででもいたのかというくらいだ。
ケーブルカーを乗り換えると、今度は視界が開け、眼下には深い谷がのぞいている。そして、向こう側には湯煙の吹き出す岩肌ものぞいている。人家もホテルも何にもなく、ただ広大な山の広がる光景に私は圧倒されていた。もし今この車両が墜落でもしたら、乗客は誰ひとりとして助からないだろう……。私は、スマホを手に取るのも忘れ、しばし景色に見入っていた。




