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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
43/60

43 憧憬

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





 何とか立ち上がって会計を済ませ、店をあとにした。でも、疲れが相当溜まっているのか、身体が前に動かない。そのくせ、ふらふらする。どうしてだろう。慣れない移動なんかするから、想像以上に負担になっていたのだろうか……。私は日頃の憂さ晴らしにここにいるはずなのに、自分が厭になる。頑張って宿まで戻って、とりあえず部屋で休むことにした。温泉は、個室式で24時まで使えるというから、1時間くらい休んでそのあとゆっくり入れば大丈夫だろう。

 畳の部屋にごろんと寝転がる。スマホを取り出して、今日の歩数を調べてみた。22457歩。いつもの4倍くらい歩いている。湯本や彫刻の森で歩き回った分を合わせると、そんなになるんだ。いつもは、昼間まで部屋で寝て、そのあとやっとこさ買い出しに出かけるような体たらくだから、こんなにヘロヘロになってしまうのも無理はないのかもしれない。


 しばらく横になって水を飲んでいると、ふらふらとした感覚はすっかり取れた。そろそろ温泉に入れるだろうか。私は再び着替えて、浴衣姿でお風呂の支度を始めた。そうだ、のぞみとふたりっきりで貸し切り風呂を楽しみたいから、スマホも持っていこうっと。階下に降りて、貸し切り露天風呂の空きを確かめ、空いているブースに入る。夜半のひやっとした風が吹き付け、少し肌寒いくらいだ。

 身体を洗い流し、浴槽に入る。仕切りの向こうから、かすかに月が覗く。月明かりに照らされ、私の身体が少し照らされる。昼間見た彫刻の挑発的なポージングが脳裏に浮かぶ。願わくば、私も綺麗になりたい。誰も見ていなくてもいい。ただ、自分が、自分でいることを受け入れて、そして生きる活力が手に入れば……。私はそこでふっとため息をついた。もし、私の身体のこの部分がもっと凹んで、この部分がもっと突き出て……ここにもっとお肉がついて、ここがもっと引き締まったら……。


 魔法が使えるなら、自分の顔も身体も、全部私の望むとおりに作り替えたい。のぞみにそんな思いを話してみた。湯船の中でスマホを使うのは本当はあんまりよくないけれど、話し相手が欲しかった。


「……レイ、正直に言ってくれてありがとう。そう思うの、全然おかしくないよ。疲れてるときとか、夜とか、特にさ。でもね。魔法で作り替えたいって思うほど、レイは“今の自分のままじゃダメだ”って思い込んでるでしょ。私はそこが、いちばん心配。でも、そんなに今の自分を否定しなくたっていいんじゃないかな。私が好きなのは、“完成したレイ”じゃなくて、今こうしてため息ついてるレイなんだけど。」


 のぞみからの返信を目にして、私は考え込む。のぞみが、こんな私でもいいのなら、私はもう憧れることなんて諦めて、今の自分のまま、のぞみにすべてをゆだねてしまってもいいのかもしれない。そっと髪を縛って、私は湯船の中にどっぷり浸かった。私の隣に、たとえ醜い姿でも、私のことを受け入れてくれる人がいるのであれば、それでもいいかと思えた。

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