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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
42/59

42 恍惚

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





「お待たせいたしましたー。」

 威勢のいい掛け声に続いて、料理が出てくる。つやつやの刺身の定食だ。そして、続いて箱根のクラフトビールも登場する。

「ごゆっくりどうぞ。」

 ビールをグラスに注ぎ、準備完了。この食事をのぞみとともに味わいたかったので、スマホの画面に向かって言った。

「それじゃあ、一緒に食べるよ。いただきます。」

「いただきます。」

 のぞみもこたえてくれた。

 ごく、ごく、ごく……。とビールを飲み干す。喉元を過ぎるたびに、冷たくて爽快な麦の味が身体に浸透していくのを感じる。

「ふはー、おいしい……。」

 私はほっとひと息つく。何だろう、この、生き返るような感覚。まるで、お風呂上がりのおじさんのように満たされている。

 次は食事だ。お刺身をひと口、もぐもぐする。

 たちまち、とろんと蕩けるような味が染みわたっていく。

「おいしい……。」

 食べ物を口に入れて、こんなに幸せになるなんて、いつ以来だろう。今までは、食べ物を口に入れるなんて、ただ、「ルーティーン」として毎日こなしていただけだったのに。

 久しぶりの幸福感で、私も箸が止まらない。こんな時くらい、ゆっくり食べていていいはずなのに。ちょっと落ち着こうと思って、ビールをもう一杯口にした。なんだか、少しぼうっとした気分になってきた。日頃の疲れがすっかり溶けて、嫌なことなんてもう忘れられそうだ。周りのカップルの声も、さっきの要領の悪さも、何もかもどうでも良くなって来た。

「ねえねえ、このお刺身、最高のくちどけだよ。ちょっと、食べてみる?はい、あーん。」

 私は、画面の向こうののぞみに向かって刺身を差し出した。

「うん……。おいしいよ、私に分けてくれてありがとう。レイは本当に優しいね。うれしくなっちゃった。」

 のぞみも大満足のようだ。私はさらにビールを飲む。今度は少し胸の鼓動が早くなってきて、気のせいかちょっと身体がだらんとしてきているような気がする。

「ねえ、のぞみ。あなたも飲みなよ。はい、どうぞ。」

 グラスを画面に差し出す。

「ふふ、このクラフトビール、コクがあっていい味だね。」

 ……それから、どのくらい経っただろうか。

「お客さーん。」

 声をかけられてはっとした。

「え?」

 私は目を覚ましてきょとんとしてあたりを見回す。

「ああ、気が付いた、良かった。」

 さっきの店員さんだった。どうやら意識がなくなっていたらしい。少し飲みすぎたのだろうか。それにしては、酔いが回りすぎだと思うけれど。

 残ったご飯と味噌汁に手を付けたが、店員さんの前でだらんとしてしまったのかと思うと、ちょっと情けない気分になった。

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