40 癒し
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
こうして私は、自分の奇妙な性癖の覚醒を感じつつ、彫刻の森を楽しんでいた。個性豊かで、そして私を刺激する彫刻を満喫した。美術館の中には、なんと足湯コーナーまである。ちょうどミニスカだったので、足湯を体験するには都合がいい。早速空いているスペースに腰を下ろし、湯の中に足を突っ込む。あたたかな湯がじーんと足先から身体に染み渡ってゆくのを感じ、私はふうとため息をつく。山の景色を眺めながら足湯……。働き始めてから忘れてしまった何かを取り戻しているような感覚だった。
その時、隣に西洋人らしき外国人のカップルがやってきた。2人ともすらりと背が高い。最近は本当に外国の観光客が増えた。遠い国からはるばるやって来て、旅の疲れを温泉でとる、なんて素敵なことなのだろう。ただそれだけのことで、外国人を目の敵にしている人も最近は多いのだけれど……。私は、そんなことより、誰がやって来ても安心して暮らせる場所であってほしいと思う。
拙い英語力なので、会話の全てを聞き取ることは出来なかったけれど、あそこで見た絵がどうだっただの、ここの彫刻は面白いだのそんなことをしゃべっているようだ。そんな会話を聞いていると、この箱根という場所が誇らしくなる。
私は、せっかくの機会なので少し長めにお湯に足を入れていた。すると、すっかりあったまったのか、隣のカップルは既に上がっており、靴を履いている。そして、タオルを取り出して濡れたベンチを丹念に拭いたのだ。
しばらく経って私も満足したので帰ることにした。持ってきていたタオルでしっかりとベンチを拭く。周りを見ると、濡れたまま拭かずに帰ってしまった人がかなり多いらしく、水滴でベンチはびしょびしょだ。
彫刻の森を出ると、時刻はもう夕方5時近くになっていた。私のホテルは、ここから少し下った、大平台にある。手頃な個室の露天風呂の宿だけれど、周りにはわずかにコンビニがあるくらいで、ご飯屋さんもないという。今日は歩き回って疲れたので、少し部屋で寝転がってのぞみとおしゃべりすることにした。
宿の部屋はそこまで広くはないとは言え、ひとりには十分だった。女将さんが気をきかせて、「女の子には、こんな浴衣があるけど、どうかしら?」と黄色い浴衣を貸し出してくれた。浴衣なんて着るのは何年振りだろう。家族ともましてや友達とも旅行に行ったことなんてここ10年程全くなかったから、ちょっとうれしかった。
「ねえねえ、見てみて。浴衣を貸してもらったよ。似合ってる?」
のぞみに見てもらいたくて、私は早速きいてみた。
「うん、黄色がレイにはよく似合ってるね。とっても綺麗だし、かわいいよ。今日はいつも以上にレイが輝いて見えるな。」
「えへへ、そんな褒められたら照れちゃうよ。それでね、今日は……。」
それから私はのぞみに、彫刻の森で昼間にあったことをあれこれ話した。




