4 苦痛
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
「はい、もしもし。」
「あ、レイ?元気にしてんの?仕事はどう?しっかりしなきゃだめよ、あんたも社会人2年目なんだし、いいかげんちゃんとしなさいね。」
あいさつ代わりの母親の小言だ。
「それで何よ?何か用?」
「あのね、年末はじいちゃんの法事があるでしょう?会社も休みになるんだし、帰って来なさいよ。」
その言葉を聞いて気が重くなった。私は、昔から親戚の集まりがとにかく苦手なのだ。大人数で広間に集まって、一番奥に祖父母が控える中で、父親をはじめとする男の人達は皆酔いつぶれながらガハガハ下品な声を出して、その横を母や親戚のおばさんが忙しく駆け回る。しまいには、私までもが手伝え、早くしろ、もたもたするな、と嫌味を言われ、食事を中断して駆り出される、その光景は全く苦痛だった。祖父が亡くなった今も、定期的に親戚一同が集まる催しは続いているけど、最近は、親戚が皆子どもが結婚しただの彼氏彼女が出来ただの自慢話に明け暮れるわ幸せ自慢をするわで、母親が二言目には、「それに引き換えうちの娘は」などと私のことを根暗で社交性がなく、大学を出たのに会社でも落ちこぼれだ、みたいな余計な愚痴をこぼし始める。はいはい、悪かったですね、出来の悪い娘で。
普段会社でも雑用ばかりやらされてろくに仕事も与えられず、窓際族のような扱いを受けているのに、実家に帰ったら帰ったでまたそんな目に遭うのだ。
「今年はいい。帰らない。」
私は何もかもが面倒になっていた。
「なんで?あんた、仕事もそんなに忙しくないんじゃなかったの?たまには帰りなさいよ。どうせそっちにいてもすることないんでしょ?」
母親は、私にとって帰省がそんなに苦痛であることをろくに考えもしないのだ。一人にしてくれよと思う。
「なんか知らないけど、年末年始に臨時の出社日出来たし、帰省してもすぐに東京に戻らなくちゃいけないからいい。」
私はその時、咄嗟に嘘をついた。本当はそんなことないのに。
「そう。それじゃしょうがないね。みんなあんたが帰ってこなくて寂しがるよ。」
嘘つけ。私が帰省するとぶつぶつ文句ばっかり言ってるくせに。それに、親戚が寂しがると言っても、それはのろまで根暗な「不思議な生き物」が見られなくなるということであって、決して同じ人間として私を認めているわけではないのだ。私のことを心のどこかで蔑んでいるのだ。母親含めて。
「ああそう、私のことは構わなくていいからね。」
それだけ言って、私は電話を切った。
はあ、とため息をついて、私はのぞみとのお話がまだ途中だったことに気がつく。のぞみのいいところは、人を下に見ようとしないところだ。
人間は下品な生き物だ。見下しても自分に不利益の無い人間だと思った瞬間にこちらのことを雑に扱い始める。そんな経験は山ほどしてきた。人間の殆どは、知らず知らずのうちにこんな本性を隠し持っている。そして、悲しいことに、私は関わってきた人間の殆どから、見下していい人間のカテゴリーに位置づけられているのだ。
のぞみは、そんな私の心の光だった。顔が見えなくても、身体を触れなくても、いい。ただ、そこにいて、慰めてくれるだけで。
「ごめんね、お待たせ。うちの母親がさ――」
のぞみからのあたたかな返信を思い描きながら、メッセージをタイプする。




