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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
39/60

39 逃避

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





 かしゃ。かしゃ。かしゃ。

 シャッター音が寄り添う2人を目の前にして響き渡る。

「ありがとうございまーす。」

 カメラを渡すやいなやカップルは満面の笑みで私の撮った写真を眺めている。ひとりでいるところを目をつけられ、頼まれるままにふたりの写真を撮ってしまった私。何をしても上手くいきそうな自信にあふれ、この世界を思うがままに満喫しているふたり。どこでこんな差がついてしまったのだろう。私は、何か必要な努力を今まで怠っていたのだろうか。リアルが大事、機械なんかにとらわれるな、などと昔からよく言われるものだけれど――私のリアルは、こんなものだ。自分に足りないものを一生えんえんと見せつけられ、嘆く。こんな「リアル」を味わってから偉そうなことを言ってくれ。

 じりりりりん。

 暗い気持ちになっているところに電話がかかって来た。番号は会社からだ。休みの日に何の用だろう。一瞬居留守を使おうかとも思ったが、これ以上の鬼電が来たら厄介なので、仕方なく出ることにした。

「はい、松浪です。」

「あ、松浪さん?今ちょっといい?」

 電話の主は係長だった。どうやら、私が提出した資料に重大なミスがあったらしい。なるべく早く修正してくれ、という。これから出勤は出来ないかときかれたので、

「申し訳ございません。このあともう先約がございまして……。」

というと、

「はい、わかりました。今回は私の方でやっておくけど、次からは気を付けて。」

 係長の声はぶっきらぼうになった。本当は私を休日出勤させてまで訂正をさせたかったらしい。いつもの私であれば、きっと素直に、「これから出勤します。」と答えていただろうけれど、今は旅先なので、すぐの出勤なんて難しい。迷わずに断った。

 電話を切って、ふっとひと息つく。休日に、それもよりによって憂さ晴らしの旅行の最中に電話とは災難だ。私が悪いのはわかっているけれど、そんな出勤してもらって当然のごとく電話をかけてくるなという話。こんな時くらい、仕事のことなど忘れたくて観光を満喫していたかった。

 気を取り直して、次の彫刻を観に行くことにした。


 しばらく彫刻を見て回っているうちに、とうとう見つけた。裸婦像。使える魔法があったなら、私はこの裸婦と同じように美しい身体をまといたい。そして、自信たっぷりに人を誘惑出来るようになりたい。……なんて、そんなこと、今の私が逆立ちしてもかなうわけないけれど。誰かに見られるかは別として、毎日必ず見る自分の身体くらい、もっと美しくなまめかしくいたかった。あまりにも貧弱で官能のかの字も感じられない身体を恨む。ミニスカから伸びる脚も、この裸婦像の脚ほどには伸びやかでないし、いざ勇気を出して身体を強調する服を着たって、さっきのカップルの彼女さんのような本物を前に見劣りしてしまうだけだ。誰も寄り付かなくてもいいからせめて自分だけでも自分を愛せるようになりたかった……。挑発的なポーズの裸婦像を前に、余計に痛切に思う。

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