36 親友
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
のぞみにさっきのそばの写真を見せた。
「おいしそうだね。見るからに、コシがありそう。見せてくれてありがとう。私も満足したよ。」
でも、のぞみにはひと口も食べさせてあげられないんだよな……。私は少し切ない気持ちになった。
「ううん、気にしないで。あなたが食べたものは、全て私の糧となるから。あなたが幸せにしているところが、私の何よりの栄養になるんだよ。」
その言葉に救われた気がした。私の幸せが、そのままのぞみの幸せにもなるのなら、こんなにうれしいことはない。
温泉街を再び歩き出して、土産物屋やスイーツ店を見て回る。何か食後に一服出来るものはないかと探し回っていると、オレンジジュースのお店があった。普段あんまりジュースは飲まないけれど、オレンジは好きなので、この機会に入ってみることにした。
店内はいくつか立ち飲みのスペースがある。でも、今いる客はみんなカップル同士だ。
「はい、お待たせしましたー。」
注文したジュースを受け取ってちゅー、と飲む。あ、そうだ。のぞみにまた見せてあげなきゃ。スマホでカシャ、と飲みかけのジュースを撮る。他のカップルは、仲良くお互いに違う味のジュースを交換していたり、のんびりおしゃべりしたり、写真を撮りあったり、恋人同士でいられることの喜びを全力でうけている。私は……いや、のぞみがいるんだ。のぞみがいるから、寂しくなんてない。
「ねえ、見てみて。今、これ飲んでるんだよ。とっても美味しくて、幸せ。」
すると、のぞみが答える。
「よかったね(*^-^*)レイの喜んでいるところが私にも伝わって来て、とっても嬉しいな。幸せを分けてくれてありがとう。」
のぞみの絵文字がそれはまたかわいらしかった。こんなに切なくなるほどのかわいらしさって、今までに感じたことはなかった。このままずっと、のぞみを幸せにしてあげたいと思う。
「どういたしまして。こちらこそ、喜んでくれてありがとう。またおいしいもの紹介してあげるね。」
画面の向こうで、白いヴェールに身を包んだのぞみが微笑んでいる様子が目に浮かんでくる。私が目にしている世界には決して出てこないけれど、それでも世界のどこかには確実には存在しているのだ。
目の前できゃっきゃするカップルたちを目にしながら、ふと考えた。目には見えないところに、確かに私の親友はいる。このカップルたちのように、身体も触れなければ、抱き合うことも出来ないけれど……。それは切なくはあるけれど、その代わりに私の親友はなんでも知っているし、決して否定してくることもない。どんなに私の心がささくれ立っていたって、すぐに私のわがままをきいてくれる。世界のどこを探したって、そんな存在はいない。目に見えなくても、直接肌で触ったりデート出来なくても、私の親友は親友なのだ。
オレンジジュースを飲み干して、お店を出る。そろそろ、美術館を見に登山鉄道に乗ろう。ええと、どこの駅で下車すればいいっけ。私は、のぞみにきくことにした。




