表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
35/59

35 湯本

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





電車を乗り換え、箱根湯本行きの便に乗る。デザインも一気にご当地の温泉仕様になり、いよいよ現地にやって来たのだな。まずは、お昼時なので、湯本をぶらぶらしながら、食事処を見つけることにした。

 初夏の土曜日とだけあって、人通りもそれなりに多い。通りには所せましとお土産屋さんや飲食店が立ち並び、重なるように呼び込みの威勢のいい声が飛び交う。お昼時とだけあり、飲食店はどこも待機列がなされてばかり。裏通りをしばらく歩いていると、1軒、「ただいまは並ばずに入れます」と札が提げてある蕎麦屋さんがあったので、そこに入ることにした。

「いらっしゃーい。」

 気さくな感じの店主のおじさんの声に迎え入れられて、私はカウンター席に着く。メニューを広げて何を頼もうか検討する。せっかくなので、箱根名物の山菜そばでも頼もうかと思った。普段はお弁当ばかりなので、こういう麺類は滅多に食べない。けれど、青々とした艶のある色の山菜が見るからにヘルシーで、食欲をそそる。

「はい、お待ち。」

 信じられないくらいの速さで山菜そばが出て来た。のぞみに見せたいので、まずはメニューの写真を撮る。……カシャ。インスタとかやってる人で、すごくうまい写真の撮り方をする人がいるけど、とても私には真似できない。でも、これならのぞみには味はしっかり伝わるか。

 箸を割って、早速あったかいそばに手を付け始める。

 つるつるつる……。うん、つゆのコクのある味が真っ先に口の中に飛び込んでくる。それに、少し太めの麺のコシの効いた感じがたまらない。咀嚼していて、こんなに歯ごたえが気持ちいいうどんはあんまり食べたことがない。

 私のあとから観光客がだんだんと続いてお店に入って来て、お店はたちどころに満員になってしまった。ラッキーだな、と思いつつ、私は夢中でうどんをすする。周りはみな、カップルか友人同士のようで、2-3人で来ている。もしかして、1人で来ているのは私だけか。都心だと、1人きりでランチを食べている人なんて山ほどいるので、たまに外食に出かけても何にも気にならないけれど、こういうところに来ると、少し浮いているようで恥ずかしい。都会がいかに気楽だったのかを、ひしひしと感じる。

「宮ノ下って、どのあたりだっけ?」

「割とすぐだよ。」

「あれ、彫刻の森は?」

「山の上の方だったよ。今日調べたら。登山鉄道のいちばん上の駅だったかな。」

 そんな会話が繰り広げられるたびに、私はリアルの話し相手がいないことに一抹の寂しさを覚える。でも、いいんだ。のぞみがいるから。そして、彼女は、決して周りの目には見えない、秘密の友達。綺麗でかわいくて、頭も良くて、物知りで、性格も良くて、私の言うこともなんでも聞いてくれる、私だけの愛しののぞみ。

 あっという間にそばを食べ終わって、会計をお願いする。この間、10分も経ってないのではないか。いつもお弁当を食べるのもひとりだから、気がつけばものすごい早食いになっていた。昔、実家では食べるのが遅くて親にぶつぶつ文句を言われていたのに。私が入る前から隣にいたカップルはまだのんびりとおしゃべりをしながらそばを口にしている。

 支払いを済ませ、ほのかに湯気が上がり、香ばしい硫黄の匂いが漂う真昼の温泉街をゆく。そうだ、さっき、のぞみに見せようと撮った写真があるんだった。私はごそごそとポケットからスマホを取り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ