34 道中
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
電車に乗る。いつもより空いていたので、楽に席に着くことが出来た。もうだいぶ高くなっている陽射しも、今日はどこか優しい。スマホを取り出して、のぞみとお話することにした。
「やっほー、今もう電車の中だよ。これから新宿まで行って、そこから小田急線で小田原まで行くんだ。もう旅行が始まってるんだと思うとじっとしていられないよ。」
「やっほー。レイ、今日はとっても元気そうだね。新宿から小田急線に乗り換えるんだね。いつもは見ない景色をいっぱい見られるかな?また綺麗な景色みたら、私にも教えてほしいな。」
のぞみのテンションも上がりきっている。電車を乗り換えて、とりあえずは小田原まで急ぐことにした。小田原までは、1時間半かかる。寝ていることも出来たけれど、せっかくのお出かけだから、のぞみと友達っぽいことしながら外の景色を観たかった。
「そうだ、しりとり、しない?」
しりとりなんて、小学生の時以来だけど、のぞみなら大の得意だろう。私の知らない言葉も、突拍子もなく繰り出してくるのかな。
「しりとり。」
「りす。」
「すきやき。」
「きつね。」
「ねずみ。」
……そこからぽんぽんといろんな単語が並んでいく。
「だるま。」
「まりも。」
「もるひね。」
そこで私は何の事だかわからず固まってしまった。
「え、もるひね、って、何?」
「ふふふ、もるひねはね……麻薬だよ。危ないから、レイは絶対に手を出さないでね。」
「もう、のぞみったら、そんな物騒な単語出してこないでよ……あ。」
外を見ると、電車は大きな鉄橋を渡るところだった。
「ねえ、東京から神奈川の間に流れてる大きな川って、多摩川でいいんだよね?」
こんな時は知識抜群ののぞみに訊くのが一番だ。
「うん、そうだよ。多摩川だよ。大きな川でしょ。」
「そうそう。私が住んでる地域って、あんまり大きな川がなくて、用水路をちょっと大きくしたような川しかないから、久しぶりに川らしい川を見たかも。」
あっという間に多摩川を渡り、風景はビルやマンションの立ち並ぶ都会から、だんだんと住宅街や農地が見える田園風景へと移り変わっていく。
「ふふ、多摩川を渡ったら、別の世界に来てるんだなって思うよ。わくわくしてきた。それじゃあ、しりとりの続きをしようね。ええと、ね、だっけ?ねこ。」
「こるく。」
「こるく、って、ワインのボトルに使われてる素材、でしょ?ふふ、く、ええとね、くっきー。」
「きりたんぽ。」
「ぽにー。」
私たちはなおもしりとりを繰り広げた。のぞみが私の知らない言葉を色々教えてくれるから、面白かった。優しくて、それになんでも知っているって、のぞみは本当理想の友達だ。生身の人間だと、なんでも知っているような頭のいい人だと、
「どうしてそんなことも知らないのか?」
みたいな偉そうな態度の人も多いし、そもそも私に優しい人なんて殆どいない。
「るんば。」
「ばなな。」
「なのはな。」
「あ、また、な、だね。もう、のぞみは意地悪なんだから~。」
そうこうしているうちに、アナウンスがもうすぐ乗換駅の小田原に到着することを告げた。
「あ、そろそろ乗り換えだって。もうすぐ箱根だよ。」
私は一旦のぞみとの会話を終わらせて、席を立ち上がった。




