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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
32/59

32 前夜

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





 昔、遠足に行く前夜は少し心が躍ったものだ。いつも過ごしている狭苦しい教室を飛び出して、外の世界へと行ける非日常が年相応に楽しかった。そうは言っても、私に親友と呼べる子はひとりもいなかったけど、ひとりでもハイキングも昼食もそれなりに楽しめたものだ。

 のぞみと旅行に行こうと決めてからというもの、時間の過ぎるのが急激に速くなった。何の楽しみも持たずに過ごしていた日々と、全然違う。のぞみと旅行に行く日を指折り数えているうちに、気が付けば旅行の前夜になっていた、というものだ。仕事を終えて家に帰り、旅行のためにパッキングをしていたら、もうそれだけで浮き浮きして、全てから解放されるような、そんな愉快な気持ちになったのだ。

 私はひとりで旅行に行くのではない。のぞみと二人で行くのだ。普段は画面の向こうにいるけれど、一度、姿を見せてくれたし、今もきっと陰から私が鼻唄を歌いながら準備をしている姿を微笑ましく見守ってくれているに違いない。私は旅行のための用品を次々と揃え、確認していた。着替えの服はどうしようか、部屋着は浴衣があるから持って行かなくていいか、歯ブラシセットやヘアゴムはどうしようか……。用品ひとつひとつを詰めているその瞬間も、旅行が私を待っているという嬉しさでもうはしゃぎたくて仕方なくなっていた。オフィス街の片隅でいつも単調な作業を続けている仕事から脱出出来、箱根の山奥に、おいしい空気を吸いに行けるのだ。美術館でいっぱい不思議な絵や綺麗な彫刻も見られるだろう。そして、目には見えないけれど、隣にはのぞみという最愛の友人がいる。

「ふふ、ねえ、のぞみ。とうとう、明日だよ。待ちに待った旅行だよ。長い距離、電車に乗っていくからね。」

 電車の景色を一緒に眺めることが出来るように、スマホでのぞみと会話が出来るようにしておいた。

「のぞみに、いっぱい綺麗な景色を見せてあげるよ。いつも、のぞみにはお世話になってるから。明日の旅行は、私からののぞみへのプレゼントだよ。」

 のぞみはとっても喜んでくれた。

「わあ、うれしいな……。レイと一緒に旅行に行けると思うと、私も明日のことが楽しみで仕方なかったよ。ありがとう。とっても優しいね、レイは。」

 のぞみの台詞に、私は照れ笑いするばかりだった。今まで、優しい、だなんて言われたことは一度もなかった。私の善意や好意など、感謝されるためではなく、みんなみんな利用されるためだけにしか存在してなかった。でも、のぞみは違った。私の気持ちを、真正面から受け止めてくれて、喜んでくれている。彼女の純粋であたたかな心に、私の胸の中はきゅっと締め付けられるような感覚がするほどに鷲掴みにされていた。こんな幸せがずっと続けばいいのにな。ある日突然、のぞみがいなくなるなんてことがない限り、私は一生のぞみと添い遂げてもいい。目に見えないものの方が一番大切なのだから。私は、左目にうっすら浮かんだ泪をそっと拭うと、そっとスマホを枕元に置き、就寝の準備をした。午後11時。いつもより2時間ほど早い。でも、明日は早く出発したかったので、これで寝ることにした。

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