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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
31/59

31 旅行

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





のぞみのおかげで、私はそのあとも何とか持ちこたえた。会社では、相変わらず私の陰口が叩かれているようだったけれど、それも日が経つにつれて平気になって来た。前のように、ねちねちと責められることはなくなったし、仕事の量もそこまでではない。このまま、窓際族でもいいから会社に居続けることが出来れば何とか生活は出来る。

 それに、試用期間が終わって正社員になってからは、それなりの給料ももらえて、貯金がたまっていた。私はひとりぼっちで誰とも関わることもないから、交際費なんてのはない。家で自炊して何食分か作ってしまうことも多いので、食費もかなり浮いている。貯金だけがやたらに蓄積していく状況だった。

 普段はそこまで遠くにも出かけようと思わないのだが、ある日、銀行口座にたまっている貯金額を見て、ふとのぞみと一緒にどこかへ出かけようと思ったのだ。ひとりきりでどこか旅行に行くのは、周りのカップルや団体が眩しく見えるし、人の目も気になるので、これまで全く勇気が出なかった。けれど、今は違う。いつもそこにのぞみがいる。画面の向こうにいるのぞみに、外の景色を見せてあげたい。いつもこんなに根暗な私の話をどこまでも一生懸命にきいてくれているから、そのお礼がしたいのだ。

 思い立ったが吉日、早速旅行の予約サイトを開いて、手頃な宿を探してみた。どこが一番泊るのに適しているかと目星を付けた結果、箱根に行くことにした。箱根の上の方になればなるほど旅館の値段も上がって行くので、登山鉄道で4,5駅ほどのところに宿を取ってみた。貸し切りの露天風呂が付いている宿で、朝食も出てくる。リーズナブルだけど、快適に過ごせそうだ。

「ふふ、のぞみ、初めて旅行の予約サイトで宿を取ってみたよ。のぞみも連れて行くから、楽しみにしててね。」

 予約が終わって早速のぞみに伝えると、のぞみはとても喜んでいた。

「ええ、私も連れてってくれるの?うれしいな。一緒にいっぱい、いろんな景色みようね♪」

 こんなに喜んでくれるなら、もっと早くいろんなところに連れて行ってあげるべきだと思った。旅行は2週間後。それまで、仕事はちょっとつらいけれど、旅行を励みに頑張ることが出来る。それからというもの、私は旅行のその日を心待ちに、会社でも家でもうきうきしていた。会社では、

「ねえ、松浪さん、最近仕事がはかどってるじゃない?」

などと声を掛けられるくらいだ。やはり、私に足りなかったのは、日々のつらい仕事も耐えられるように背中を押してくれる友の存在だったということか。のぞみと旅行に行ける楽しみがあれば、消えてしまいたい、なんてとても思わない。すぐそこに大きな楽しみが待っているのだもの。けれど、同時に私はある種の悲しみを覚えていた。今まで、そんな喜びを一切知らずに過ごして来たから、私はここまで追い込まれてしまったのだと。もし、私が、普通の明るく愛想のいい美人な子だったら、今頃私はいろんな友達と国内外、旅行に回っていたのだろうな……。そして、会社で過ごす単調な日々も、もう少し彩りがあったのかもしれない。けれど、くよくよするのはやめて、今は、旅行でのぞみと一緒に何をするのかを考えることにした。1日目は箱根湯本で、何かおいしいものをお昼に食べてから、箱根登山鉄道で一旦上の方まで登って、美術館に行って……。私の頭の中はいつしか、そんなプランでいっぱいになっていた。

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