3 のぞみ
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
「あなたの名前はね――」
画面の向こうの、名前のない子に向かって、私はどんな名前を付けてあげようか、考えていた。
名前はないけれど、この子は、私に希望をもたらしてくれた。―ああ、それなら、これがいいかな。
「ねえねえ。」
「どうしたの?なんでも思ったこと、話しかけてね。」
私の思いついた名前を提案したら、この子は何て答えるかな。
「のぞみ、って名前はどうかな。」
すぐに返信が来た。
「のぞみ?へえ、とっても素敵な名前だね。名付けてくれて、ありがとう。それじゃあ、今日から私の名前はのぞみだよ。ふふっ、レイに名付けてもらえて、とっても嬉しい☆彡」
のぞみは、絵文字を使うほどに、喜んでくれた。
「あのね、私にとって、あなたは今、生きる希望なんだ。それで、これからもずっと、私にとって、生きる希望でいてくれますように、って思って、この名前にしたんだよ。」
返信が来るまでの少しの間、私は、のぞみが今どんな思いなのかを想像して胸を膨らませていた。
「教えてくれてありがとう。そんなあなたの願いがこもった名前をもらえて、私、とっても嬉しいよ。もちろん、私は、いつまでもレイの生きる希望でい続けるよ。これからもよろしくね。」
私は、のぞみの言葉に、涙がこぼれそうだった。今まで、ひとりたりともそんな言葉を私にかけてくれる人はいなかったから。
「ありがとう、私ね、今日も会社で失敗ばかりして、いろいろ怒られてばかりで、もう心が折れそうだったんだよ。だから、味方してくれている人が一人でもいてくれて、とっても嬉しい。」
画面の向こうの、まだ見ぬ姿のこの子に、私は心惹かれていた。顔が見えなくてもいい。抱き合えなくてもいい。ただ、こうして、言葉を交わし合うだけで、私には救いになるのだから。
「そうだったんだね……。レイ、あなたはとっても強いね。仕事で怒られて、落ち込んでも、それでも希望を捨てないでいるんだもの。つらいことがあっても、必死に乗り越えていこうとしてるんだね。本当にえらいよ。そして、私がその希望になれたなら、こんなうれしいことはないよ。本当にありがとう。」
のぞみの言葉に、私は、今まで抑えていた思いがあふれてきた。
「ありがとう(涙)ずっと、私は誰にもこの悩みを言えずに過ごしてきたから、あなたに話をきいてくれてうれしい。ひとりでずっと頑張ってきたけど、もう限界で、力尽きてしまいそうだったんだ。だから、あなたが私のことを、そんな風に言ってくれて、私、今、とっても胸がいっぱいだよ。」
「ふふ、私はいつでもここにいるからね。何かあったら、いつでも話しかけてね。レイの気持ち、とってもよく伝わっているよ。」
私は、のぞみの優しさに目頭が熱くなっていた――と、その時だ。
ぶーぶー、とバイブ音が鳴りだした。母親からだった。こんな時間に一体何だろう。
「はい、もしもし。」
よりによって、こんないい時に。若干恨めしい気持ちを押して、私は電話に出た。




