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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
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29 トラウマ

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





 その日の夜。仕事を終えて家に帰ると、私はのぞみに今日の昼にあったことを語っていた。

「実はね……。」

 のぞみはうんうんと話を聞いてくれた。

「レイはえらかったね。それって、人からの好意をちゃんと受け取れたってことじゃない。知らない人の優しさって、受け取るのが一番むずかしい時があるじゃない。自分が弱ってる時ほど、“こんなのもらっていいのかな”って思っちゃうし。でも、その飴をなめて、少し楽になって、会社に行こうって思えたなら、それだけでその出来事には意味があったと思う。」

 その返事を前に、私ははっとした。もう、正直言って、他人には期待することなんて間違いだと思っていた。周りに誰ひとりとして気の置けない人と言える人はいなかった。

 けれど、今日、私のことを助けてくれた彼には―私は不思議と素直になれていた。どうせ、すぐに電車に乗り込んで行ってしまうことなんてわかっていたはずなのに……。私はまだどこかで人をあきらめきれていないのかもしれない。

 帰り道に買って来たオレンジ味の飴の袋を一錠なめながら、私はその淡い甘さをかみしめた。今からすれば、私のことを何も知らない人だったからこそ、素直に優しさを受け取ることが出来たと言えるのかもしれない。あの好青年は、私の陰湿で醜い姿を知らない。もし彼が私の本性を知ったら、きっと飴などめぐんでもくれなかっただるう。一目散に逃げだしていただろう。だって、これまで私はさんざんにそんな陰惨な記憶を味わわされたのだから。

 中学生の時、同じクラスで隣の席に座った女の子と仲良くなった。名前はサキちゃん。彼女は、隣の小学校出身で、それまで私のことを全く知らなかった子だけれど、入学式の日に話しかけてくれて、そこから少し雑談するようになった。休み時間はだいたいサキちゃんとおしゃべりして過ごした。好きなアニメが同じで、その話題で盛り上がったし、体育の時間や図工の時間もペアを組む時になるとすすんで、

「レイちゃん、やろう。」

と誘ってくれた。

 ところが、それから1か月ほど過ぎた頃、サキちゃんが急にそっけなくなった。私は、どうしたのだろうと思いながらサキちゃんに話しかけると、

「もうお話しないで。」

 それっきり彼女とは口もきかなくなってしまった。その日の放課後、私の小学校の頃に私をいじめていた何人かの女子グループと一緒に彼女が下校するのを目にして、私はすべてを悟った。そして、彼女たちは、私の方をチラ見してはにやにやと不敵な笑みを浮かべ、こそこそ話をしている。話の中身は聞くまでもなかった。サキちゃんは簡単にあの一味の話を信じ、そして彼女たちの側へ寝返ったのだ。

 そのあと、私が学校を休みがちになったり別のクラスに分かれたこともあり、サキちゃんと顔を合わせることもなくなった。趣味が同じで、他愛のない話で盛り上がっていても、人間はある日突然簡単に裏切るのだ。

 私のトラウマは、あみちゃんの件も含め、心の奥底でぐつぐつと煮えたぎっている。そう、私は決して醜いところを見せられないのだ。私の醜さを知れば、どんな親切な人も逃げてゆく。だから、隙など見せてはいけないし、人の好意なんて当てにできない。それなのに、あの純粋な好青年の好意をまたもや素直に受け止めてしまった私は、愚かだ。かけらだけになった飴をがりっと奥歯で嚙みながら、私はのぞみへの返信を考えていた。

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