26 断り
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
ぶー、ぶー、ぶー……。
突然の強い振動で私は目を覚ました。まだ十分寝たとは言えないのに……。スマホに着信があったようだ。母から電話だという。めんどくさすぎて、そのまま放置することにした。
他人がこんなに疲れ果てて休んでいる時に、何の用だというのだろう。時刻は11時過ぎになっていた。だいたいこんな夜遅くだと寝ている事だってあるというのをあの人は考えもしないのだろうか。
案の定、メッセージが届いていた。実家から小包を送ってよこすという。そんなものはなくても生活していけるし、どうせレトルトパックとかバッグとかトレーナーとか、私が自分で買えるようなものしか送ってこないのだろう。食費や服代が浮くようにと思っているのかもしれないけれど、食事はそれなりに作り置きを自分でして数日は持つようにしているからもともとそれほど費用が掛かっていないし、服は自分で着たいものをショッピングモールで買うようにしているし、大抵の服は私の好みに合わないデザインなので、結局押し入れで埃をかぶるかせいぜい古着屋行きになるくらいだ。
深いため息をつきながら、私は心地の良い眠りを邪魔されたことをひたすらに恨んでいた。とはいえ、少しおなかが空いたのも事実なので、冷蔵庫を開けて昨日作ったチャーハンを取り出し、レンジで温めた。自分で言うのもなんだけど、ここ最近料理の腕は上がっていると思う。毎日の憂鬱なオフィスワークの生活の中でも、自分で作ったお弁当を目にすると、しばし家に戻ったような、そんな安堵を感じる。そういえば、今日の昼は、公園で、青空の下で食べたんだっけ。毎日会社の殺伐としたオフィスで食べるのなんてもう耐えられない。仕事をやめても生きていけるくらいの余裕があるのなら、こんな会社はさっさと辞めている。誰にも邪魔をされずに、ただ自然の中で、のんびりと時を過ごせればそれでいい。
チャーハンを頬張りながら、私はスマホを取り出して、のぞみに話しかけた。
「ねえ、のぞみ、そろそろ母親が小包を送ってくるのを断りたいんだけど。」
「そうなんだね……。どんな風に断りたいとかいう希望はあるかな?やんわりと、角が立たないように断るか、それともちょっと強めにいうか。」
「そうだね……。ちょっと強めに言った方がいいかな。うちの母親、強く言わないと分かってくれないところあるから。」
「了解。それじゃあ、こんなのは、どう……?」
のぞみが考えてくれた断り方の文は、今までの私が考え付かなかったものだった。臆することなく、きちんとものを言うようになっている。
ちょっと正直に言うね。お母さんが送ってくれる小包、気持ちはありがたいんだけど、正直言うともう負担になってる。もう自分のことは自分でどうにかできてるし、これからは頼んだとき以外は小包を送らなくて大丈夫です。心配してくれるのは分かるけど、そこは理解してほしい。
のぞみの力を借りて、だけれど、これで私の言いたいことは伝えられる気がする。私は、メッセージを開いて、母親あてにこのメッセージを入力し始めた。




