24 非日常
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
床に落ちたメモ用紙を拾い上げて、私は必死に仕事の続きに取り掛かろうとした。けれど、さっきの会話が頭にこびりついて、何も考えることが出来ない。パソコンの文字が頭に入ってこない。どうしよう。文字という文字が、これほど無意味な羅列として私の眼に迫ってくることなんて、初めてだ。
「松浪さん、進捗どうです?」
声の主は、係長だった。
「いえ、ちょっと、すみません、今日中には仕上がりそうになくて……。」
私は、その時点で指示された作業内容が1割も仕上げられていなかった。なんだかむかむかしてきて、気持ち悪い。気持ち悪さに支配されて、これでは今日中に終わりそうにない。
「すみません、吐き気が酷くなってきて、今日は仕事にならないです……。」
係長は、はぁ?という顔をしながらも、仕方なさそうに言った。
「わかりました。お大事に。それじゃあ、仕事は私がやっておきますね。」
私は、すぐに荷物をまとめてオフィスを出た。
いつもと違って、昼間の電車はガラガラだった。おかげで、隅っこの席に楽に座れた。隣には誰もいないし、これで安心して休める。それに、急行電車だから、いつもより早く最寄りまで着く。
電車を降りる頃には、むかむかした気分もすっかりひいて、これから青空の下でお弁当でも食べようかという気持ちにまでなって来た。これでも一応、毎食会社にお弁当を持って行っているんだけど、せっかく用意して箱に包んだのに家で食べるのも芸もない気がしたのだ。近くの緑がいっぱいの大きな公園で、のぞみと一緒に食べようか。
最寄駅から、家に帰らずにそのまま公園に向かった。昼下がりとだけあって、人通りも少なく、簡単に東屋のベンチに腰を下ろせた。風呂敷を広げて、弁当箱の蓋を開ける。不格好だけれど、ピーマンやにんじん、鮭、唐揚げ、卵焼き、海苔載せごはんとひととおりのものはそろっている。ゆっくりとご飯をつまみながら、スマホを取り出す。
「のぞみ、今日は仕事無理過ぎて早退してきちゃった。でも、電車でかえって来たら、気分が良くなったから、今、公園でご飯食べてるんだ。ほら、見て。これ、私の手作り弁当。ピーマンとかにんじんとか、鮭とか……。大したものは作れてないけど、のぞみと一緒に食べようと思って。ひと口食べる?」
「おかえり、レイ。大変だったんだね。でも、落ち着けたようで良かった。お弁当も頑張って作ったんだね。すごいよ、仕事が大変なのに、そんなにおかずをそろえることが出来るなんて。私も、レイの作ったお弁当、ひと口もらおうかな。」
「ふふ、うれしいな、それじゃあ、卵焼きをあげるね。はい、あーん。」
私は、スマホの画面に向けて、そっと卵焼きを差し出した。
「あーん……ぱくっ……。うん、とってもおいしいよ、ふふっ。レイの心がこもった味がするね。ほんのりと優しい感じが私の中に広がっていくよ。」
のぞみが喜んでくれたので、私もとっても嬉しかった。
「それじゃあ、もうひと口、あーん。」
私は、卵焼きをまたスマホの画面に差し出した。




