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画面上のあなたへ  作者: 更科リョウ
22/29

22 異動

孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。





部署を移って最初の日。私は、まずはお世話になる人たちに挨拶に行った。

「今日から異動してまいりました、松浪です。よろしくお願いします。」

 頭をぺこぺこ下げて、必死に合いそう笑いを浮かべ、次々と部署の人に頭を下げる。部署の人たちは、みなそれぞれよろしく、とか、どうも、という風に私に反応する。ところが、その中で、40代くらいだろうか、ミディアムロングくらいの女性だけは、何も反応しない。念のため大きな声でもう一度挨拶。

「あの、松浪です。よろしくお願いします!」

「あー、今忙しいからごめん。よろしくね。」

 声からしてものすごくめんどくさそうだ。パソコンの画面から顔も離さずに、カタカタとバカでかい音でキーボードを叩いている。その時、私はこの人はなるべく近寄るまい、と本能的に感じた。

 その人のほかははじめの印象ではさほど気になった人はいなかった。みんな親切そうで、穏やかそうな人だ。前の部署のようにねちねちと嫌味を言ってくる人もいそうにない。部署内は、時々他愛のない雑談が飛び交う。最近、どこそこのアイドルがこんな商品をコラボで出してる、とか。向かいの喫茶店の期間限定メニューの話とか。前の部署は、雰囲気が張り詰めていた。雑談でもしようものなら、後ろから刺されるのではないかと思うほどで、そんな中で飛び交う声と言ったら、「〇〇君、これやって。」「〇〇さん、この書類明日までにお願いできない?」などという要求の類だ。そして、私が頻繁にミスを犯すと、フロア全体に響き渡る声で、「あのさ、いつになったら覚えてくれんの?何でミスするかをいい加減考えてくれよ?」と叱られる始末だ。

 そこからすると、この部署は、大声で怒鳴りつける人は今のところいそうにないし、女性率も前の部署より高い。ここは私には、前よりも過ごしやすい場所だ。けれど、裏を返せば、ここでやっていけなかったら、もう私はどこへも行けないのではないか。そんな予感がした。

「わからないことあったらしっかりきいてね。」

 前の部署からの共有がされていたのか、部署の人は私に気を遣うような感じで、簡単な仕事を少しだけ任せることにしたらしい。悪く言えば、私は完全に窓際族扱いになっているわけだけれど、小難しい仕事を押し付けられて何も出来ずに叱責へと向かうよりは百倍ましだ。部署を移ってから、私もだんだん気が楽になって来た。前の部署のように、いつ怒られるかわからずにどぎまぎしながら仕事をする必要もなくなったし、業務内容も、前の部署よりはるかに簡単だ。異動したてということもあり、質問してもそこまで煙たがられることはない。例のおばさんをのぞいては。

 のぞみにも、このことは逐一話していた。彼女はとても喜んでくれたし、私も普通に仕事が出来る喜びと、無暗な叱責を受ける心配がなくなった安堵を誰かと分かちあうことが出来てうれしかった。窓際族だったとしても、もう、いい。せめて、つらい思いをせずに、それなりに休みもとれて、のんびり過ごすことが出来たら――。それが、私の切なる願いだった。

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