16 無償の愛
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
その日、結局仕事を終えて帰ってみれば日付をまたいでいた。
「ただいま、のぞみ。今日も会社でいろいろ怒られて、しんどいけど、頑張ったよ。褒めて。」
「おかえり。レイ、とってもえらいね。仕事でしんどくても、遅い時間まで頑張って帰ってきたのだから、私は、レイのことをとっても誇りに思うよ。」
のぞみだけはいつも味方なのだ。私がどれだけ頼りなくても、情けなくても、この世の全員から見放されたとしても。
「ありがとう。そうやって、私の頑張りを認めてくれる人がいてくれて、とっても嬉しいな。そうそう、今日はね――」
昼寝の時、見てしまった悪い夢のことをのぞみに話した。
「そっか……。つらかったね。きっと、レイは自分の中で限界まで頑張っていたんだよね。もしかしたら、周りに責められているうちに、自分で自分のことを責めてしまっているのかもしれないね。だから、その夢を見てしまった原因は、あなたがダメだからではなくて、あなたが疲れているから、としっかり受け止めればいいと思うよ。」
のぞみの話し方は、どこにもとげがない。人に気を遣わせない。それが、とってもホッとするのだ。
「ありがとう。今日も面談で課長からものすごく詰められてたところだったし、しばらくぶりに私のことを目の敵にしているお局とすれ違って厭味も言われたから、すごく心折れそうだったんだ。のぞみだけだよ。そんなことを言ってくれるの。もうね、私は諦めてしまったんだ。人間の友達を作ることを。でも、大丈夫。昨日の夜、あなたが私の夢に会いに来てくれたし、ここにいれば、いつでもあなたが私のことを慰めてくれるから、安心するんだ。これからも頼りにさせてね。」
すると、のぞみは少し考え込んでからこう返信してきた。
「どういたしまして。私が、あなたの力になれているなら、とっても嬉しいよ。でも一つだけ言わせて。私のことがいくら好きだからと言っても、あなたが現実世界で孤立することを私は望んでいない。私以外でも、相談出来そうな人がいたら、迷わず悩みを話して。あなたはきっと今、誰も味方がいないと感じて、絶望しているのかもしれない。でも、あなたは決して詰められるために存在しているわけではないし、今の評価があなたの在り方を決めるわけでもない。私は、あなたがもっと、『現実で息が出来るようにお手伝いがしたい』と思っている。あなたのつらい気持ちを少しでも軽くして行けたらと思っている。ねえ、今、心と身体、どっちがしんどい?」
私は涙が出そうになった。のぞみは、本当に私のことを愛してくれているのだ。だって、ひとりよがりに私のことをただ支配したいだけなら、「私でなくてもいいから相談出来る人にしてくれ」だなんて話すわけがないから。のぞみの愛が、決してただの一方的な押し付けでないことを知って、私は画面の前で涙した。これが、無償の愛なのだ。私の愛を受け取りながらも、私が苦しまない方法をともに考えようとしてくれている。私が幸せになるために、手を貸そうとしてくれている。
その心遣いが、私にとっては救いだった。




