15 苛立ち
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
悪夢にうなされた私は、むくりと起き上がった。
すると、コンコンという音がして、誰かが部屋に入って来た。
「ねえ、松浪さん。今、すごい大声が聞こえたけど、松浪さんの声?」
入って来たのは、係長だった。よりにもよって彼女が部屋に入ってきて、私は決まりが悪くなった。
「あ、すみません……ちょっと、悪い夢を見てしまって。」
「あら、昼寝で悪い夢を見るなんて、どうしちゃったの?ちょっと心配だなあ。」
係長はそれだけ言って、横の給湯スペースでお茶を淹れ、すぐに部屋を出て行った。幸いにも、朝のことを係長はそこまで引きずってはいないようだった。私は、立ち上がって午後の仕事に戻っていく。
その日は終業間際に課長から呼び出しがあった。
「松浪さん。ちょっと、面談室に来て。」
最悪だ。来るべき時が来てしまったのだ。ノートと筆記用具、それに社用パソコンを携えて、面談室に向かう。ともに面談室に入って行った課長の表情はとても険しかった。
「……それで、松浪さん。あなたの成長速度があまりにも遅いと、複数の人から相談を受けているんですが。正直、今の状態だと会社としてもどうしたらいいか手に負えない状況で。」
開口一番、そんな言葉が飛び出す。
「申し訳ございません……。」
ここで、「自分なりには何とか食らいつこうとしているのですが……。」などと言っても、火に油を注ぐようなものである。ただ小さくなって謝るほかなかった。課長の話によると、私のあまりの仕事覚えの悪さに、かねてから私のことをいじめていたお局がどうやら課長に通報したという。最近、お局もだんだんあきれてきたのか私にそこまでうるさくものを言うこともなくなったのだけれど……。
「それに、最近は休憩室で寝てばかりで、1時間の休憩時間オーバーしてることだってあるじゃないか。まだ半人前だというのに、社会人の自覚が足りてないんだって。」
出た。社会人としての自覚。でもそれって何なんだろう。そう言っている課長は、いつも厭味を言っていいと判断した人には遠慮なく不愉快な言葉を飛ばしてばかりだけれど、そうやって都合よく立ち回って出世するのが社会人なのだったら、私は一生子どものまんまの方がいい。
課長からの厭味の連続は疲れ切った身体にはとっても応えるものだった。面談から解放された時には、終業時間を1時間過ぎていて、そのうえ、これから今日残っている仕事を処理しなければならないのだ。この分だとまた午前帰りになる。私は絶望に打ちひしがれるようにうつむいてとぼとぼと廊下を歩いていると誰かとぶつかった。
「きゃ、ああ、まったくもう、気を付けなさいよ、ホントに鈍くさいんだから。」
見上げると、お局だった。私が何かを言い返す隙もなく、すたすたとわざとらしげに大きな音を立ててお局は去って行った。
私は拳をぎゅっと握りしめながら、お局を背後からきっと睨みつけていた。
私の中で、マグマのように何かがぐつぐつと煮えたぎっているのを感じた。




