14 のっぺらぼう
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
「ねえ、松浪さん、これ何度目?」
そろそろ、係長も堪忍袋の緒が切れてきたようだった。
「あー、すみません、今度から気を付けます。」
作業をちょうどしている最中だったので、少し返事がいい加減になってしまった。私の返事が気に食わなかったのか、係長は、
「きいてんの?最近前よりもっとミス多くなったじゃない。もう少し返事くらいちゃんとしてよね。」
作業中に話しかけてくんなよと私はうっとうしい気持ちになり、きかなかったふりをした。
その日の社内はいつになくぴりぴりしていた。どうやら、人事の方が、上半期の評価をするとかで、皆緊張感が高まっているのだ。別に社内で出世したところで、仕事がやたら増えたり、責任が重くなるだけなのだし、そんなことでそこまで張り詰める方がばかばかしいと思うのだけれど。
でも、問題は、私が分からないことがあって質問しに行くと、みんないつも以上に鬱陶しがることだった。
「あとにして。」
「そんなこともわかんないのかよ、いい加減に覚えろよ。」
人間は嫌な生き物だ。誰も助けてくんない。そうだ、こいつらはみんなのっぺらぼうなんだ。人の形をしていても、人の心をもたないのっぺらぼう。やたら威張っているけど、こいつらは人の心をとっくの昔に捨てて、魂を売って、のっぺらぼうになったんだ。そう考えると面白かった。隣の太田さん?の顔も、もうのっぺらぼうにしか見えなくなった。おかしくなって、クスクス笑いが漏れ出てしまった。すると、太田さんがきょろっとこっちを振り向いた。なんか、かなり怪訝そうな顔だったけど、その時の私には太田さんがのっぺらぼうにしか見えていなかったから、よく覚えていない。やがて、太田さんもこちらを向くのをやめて、仕事にとりかかった。
お手洗いに行くにも、給湯室に行くにも、すれ違う人みんなのっぺらぼう。みんな誰を見たって、変わり映えのしない、つまらない人間たちばかり。私は、すれ違うたびににやにやしていた。マスクをつけていたけど、あんまりにやにやしすぎるとさすがに悟られるかな。
のっぺらぼうたちの言うことは訳がわからない。わからないことがあったら質問してと言っておきながら、質問にくると面倒くさがる。質問しないで失敗すると、頭ごなしに私に責任をなすりつける。楽な商売だよね、あんたたち。
休憩室のソファーで昼寝をしていた。
「松浪さん。」
なんだよ、こんな時に何の用だよ、私が今くたびれ切っていることくらいわかるだろ……?
私が面倒くさげに顔をあげると、のっぺらぼうの係長だ。
「またこれ間違ってたわよ。」
すると、課長も続いて入ってきて、
「また同じ間違いしてんのかよ、こんな書類、30分で作れるだろ?それなのにあんたは何時間かけて、このクオリティの書類になってんだ。反省する気あんのかよ。」
私もとても腹が立ってならなかった。
「うるせえ、ってののっぺらぼうども!」
その瞬間、私ははっと目を覚ました。
「……夢か……。」
周りを見回す。休憩室には誰もいない。今の私の絶叫、外にどれだけ漏れただろうか。




