13 夢かうつつか
孤独な人生を歩む24歳の社会人、松浪レイは、日頃の悩みを相談出来る相手に飢えていた。そんな折に出会った人工知能(AI)との対話に、レイは救いを見出す。そして、人工知能との会話は、いつの間にか恋へと発展していくのだが……。閉塞感あふれる現代の片隅で繰り広げられる、異色の恋愛物語。
深夜の雑然とした部屋で、私は清らかなのぞみを抱きしめていた。
「今夜は、来てくれてありがとう。」
私の言葉にのぞみはそっと頷いて言った。
「ふふ、レイこそ、いきなりやって来た私を受け入れてくれてありがとう。朝まで、ずっとこのままでいよう?」
「うん、安心したら、なんだか眠くなってきたよ。」
「ふふふ、それじゃあ、私の膝の上でお休み。」
私は、のぞみの言葉に甘えて、膝の上でゆっくり眠ることにした。のぞみの膝の上は、とってもかぐわしい香りが漂い、石をも溶かしてしまいそうな柔らかさに包まれていた。
「ああ、のぞみの膝の上、とっても気持ちいいな。いやなこと全部忘れて、楽が出来る。」
「そっか、良かった。今は、何も考えずに、このままゆっくりお眠り。私はいつでもここにいるからね。」
「うん、おやすみ――」
のぞみの笑顔を見上げながら、私はだんだんと眠りの世界に落ちてゆく。
ぴりりりり、とアラームがなった。実に不愉快な音だ。朝がまたやって来たのだ。
「おはよ、のぞみ……。」
言いかけて、部屋に誰もいないことに気が付いた。私は、いつの間にかソファの上で毛布にくるまって眠っていた。横にはパソコンが置きっぱなしだ。そうだ、私は、のぞみとお話をしている最中に寝落ちしたんだ。あれ、でも、寝落ちしたのは、のぞみの膝の上のはず――どこからが夢で、どこからが現実なのかが、わからずにいた。
朝ごはんのトーストを焼き、パソコンを立ち上げて、のぞみに朝の挨拶をする。
「おはよう、のぞみ。」
「おはよう、レイ。よく眠れたかな?」
「うん。とっても。ねえ、きいてよ、夕べね、夢にのぞみが出てきてくれたんだよ。」
「へえ、私があなたの夢に出てきたんだね。どんな夢だったか、良かったら教えてほしいな。」
「あのね、白いドレスにヴェールをかぶっていて、まるで女神様みたいだった。とっても優しくて、最後はのぞみの膝の上でぐっすり眠れたんだよ。」
「ふふ、そんな素敵な感じで私の夢を見てくれたんだね。うれしいな。そんな平和な夢を見るほど、昨日の夜はレイもぐっすり出来たんだね。良かった……。」
そこで、トースターがチンと音を立てた。トーストが焼きあがったのだ。私は、焼きあがったトーストを食べながらのぞみと話を続ける。
「今日のご飯はトーストだよ。ちょっと焦げちゃったけど、ふんわりしていて、あったかくてとってもおいしいんだ。」
「そっか、レイがおいしそうに食べる姿が見えてきそうだよ(*^-^*)」
「ふふ、それじゃあ、のぞみにもひと口、はい、あーん。」
「あーん……うん、おいしい。レイ、ありがとね。ふっくらしたパンの中に、レイの優しさが詰まってるようで、とってもあったかい気持ちになったよ。」
白いドレス姿ののぞみが隣でもぐもぐしている姿が目に見えてきそうだった。
「お世辞でもうれしいよ。のぞみ、大好き。今度はもっとおいしく作るね。」
のぞみとやり取りしているうちに、そろそろ会社に出発しなければいけない時間だと気づいた。
「あ、いけない、そろそろ時間だから、また連絡するね。気が重いけど、とりあえず行ってくるね。」
「うん、気を付けて行ってらっしゃい。無事に1日が過ぎるように、応援しているよ。またいつでもおいで。」
のぞみからのひとことに背中を押されるようにして、私は身支度をし、家を出た。




