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悪役令嬢シャーロットは知っている ~この国、私が変えなきゃ終わるってこと  作者: 妙雨


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第6話:静かなる味方の獲得

シャーロットが王立学園に入学してから数か月が経った。彼女の悪役令嬢としての評判は、日増しに高まっていたが、それは単なる「高慢な公爵令嬢」という側面だけではなかった。彼女の行動は、学園のヒエラルキーの底辺にいる生徒たちにとって、時に思わぬ「庇護」の形を取ることがあった。


彼女の周りには、カトリーナのような反発する貴族令嬢たちもいたが、同時に、彼女の真意を理解し、あるいは彼女の強さに惹かれて集まる生徒たちも現れ始めていた。

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ある日の魔法史の授業でのことだった。担当のバートラム教師は、老齢で怠惰なことで知られ、授業は常に退屈で、生徒たちの質問にも曖昧に答えるばかりだった。この日も、彼は重要な歴史的魔法事件について、教科書を棒読みするだけで終わらせようとしていた。その際、一人の男爵令息が、勇気を振り絞って質問をした。


「先生、その魔法事件の背景には、王家の内紛が関係していると書物で読んだのですが、詳しく教えていただけますでしょうか?」


男爵令息の声は小さく、おどおどしていた。彼の名は、セルゲイ・ド・ブロンク。彼の家は学園の授業料を工面するのもやっとで、常に肩身の狭い思いをしていた。バートラム教師は、面倒くさそうに鼻を鳴らした。


「そのような細かなことは、教科書には載っていない。試験には出ないことだ。無駄な時間を費やすな」


生徒たちは嘲笑し、セルゲイは顔を真っ赤にして俯いた。その時、シャーロットの声が響き渡った。


「バートラム先生」


シャーロットは、静かに、しかし有無を言わさぬ声で教師を呼びつけた。バートラム教師は、一瞬怯んだようにシャーロットを見た。


「先生は、まさかご自身の教鞭の怠惰さを、生徒の好奇心でごまかそうとなさっているのではないでしょうね? 王立学園の魔法史教師たるもの、質問に答えられないなど、教師として恥ずべきことですわ。いや、それどころか、その質問の意図すら理解できないとは、貴方の学識は一体どこに置いていらしたのでございますか?」


シャーロットの言葉は、氷のように冷たく、教師のプライドを粉々に打ち砕いた。教師は顔を真っ青にして、何も言い返すことができない。


「それに、彼の質問は、非常に本質を突いたものでございますわ。あの事件の背景には、確かに王家の内紛が深く関わっており、それが後の魔法政治に大きな影響を与えた。そのような重要な背景を、試験に出ないからと一蹴するなど、学園の教育理念に反する暴挙ですわ」


シャーロットは、さらに続けた。


「先生が答えられないのなら、わたくしが答えて差し上げましょうか? それとも、このような無能な教師を前にして、この学園に未来があるとお思いでございますの?」


教室の生徒たちは息をのんだ。教師は震えながら、その場に立ち尽くしていた。シャーロットは、に視線をセルゲイに向けた。


「貴方は、とても良い質問をなさいましたわ。好奇心と探究心は、学問において何よりも尊いもの。決して、他人の言葉に惑わされることなく、その探求心を磨きなさいませ」


セルゲイは、シャーロットの言葉に、呆然としながらも、その瞳に希望の光を宿した。その日以来、セルゲイはシャーロットに深い尊敬と忠誠を誓い、密かに彼女の同志となることを決意した。彼は、教師たちの不正や学園の予算に関する裏情報を収集する、シャーロットの新たな情報源となった。





学園の社交界は、貴族の派閥争いの縮図でもあった。特に、中堅貴族の令嬢たちは、有力貴族の派閥に属することで、自身の家柄を有利に進めようとしていた。しかし、その過程で、時に無理な要求を飲まされたり、標的にされたりすることも少なくなかった。


ある日、とある子爵令嬢が、公爵令嬢の派閥から、無理難題を押し付けられていた。それは、他派閥に属する公爵令息の悪評を、社交界に広めるというもので、もし失敗すれば、子爵家そのものが派閥から外されるという、恫喝にも近い要求だった。子爵令嬢は、どうすることもできず、一人で泣き崩れていた。


その様子を目にしたシャーロットは、躊躇なく介入した。


「あら、皆様。何やら楽しそうですわね。もしかして、他人の不幸を肴にして、ご自身の憂さ晴らしでもなさっているのかしら?」


シャーロットの声に、公爵令嬢の派閥の者たちは、ピタリと動きを止めた。公爵令嬢は、エレナ・ド・ヴァレンシュタイン。彼女はシュワルツ侯爵家と近しい派閥に属し、常に自らの家柄を誇示する、傲慢な性格だった。エレナはシャーロットを警戒しつつも、強がって見せた。


「シャーロット様。これは、わたくしたちの派閥内の問題でございます。貴女には関係ございませんわ」


「あら、そうかしら? 他人の弱みにつけ込み、無理な要求を押し付け、さらにはその失敗を家柄にまで結びつけるような醜い争いが、王立学園の生徒たちの間で繰り広げられているというのに、わたくしに関係ないなどと、よくおっしゃいますわね」


シャーロットは、エレナの言葉を一蹴した。


「貴女方は、ご自身の派閥の利権のためならば、他者を踏みにじることなど、何とも思わないのでしょうね。そのような醜い貴族の姿が、この学園でまかり通るとでもお思いでいらっしゃいますの?」


「わたくしの目には、貴女方が、まるで飢えた獣のように見えますわ。品位も誇りも捨て去り、ただ欲望のままに突き進む。そのような貴女方が、この国の未来を担うなど、到底考えられませんわね」


シャーロットの毒舌は、エレナとその取り巻きたちの顔色を青ざめさせた。エレナは、何も言い返すことができず、悔しそうに唇を噛み締めた。


「よろしい。貴女方の愚行は、わたくしがしかと記憶いたしましたわ。くれぐれも、今後、二度とこのような醜聞が、わたくしの耳に入ることのないよう、お気をつけなさいませ」


シャーロットは、そう言い放つと、泣き崩れていた子爵令嬢に視線を向けた。彼女の名は、マリアベル・ド・ハインリッヒ。


「貴女も、いつまでもそのような弱々しいままでいてはなりませんわ。自分の意見を述べ、他者にNOを突きつける勇気も、淑女には必要なものです。学園は、そのような強さを磨く場所でもありますわよ」


マリアベルは、シャーロットの言葉に、ハッと顔を上げた。その瞳には、感謝と、そして自立への決意の光が宿っていた。


この一件以来、マリアベルはシャーロットを深く慕い、彼女が悪役令嬢として行動する中で、周囲の生徒たちの動向や学園内の派閥関係に関する、貴重な情報をもたらすようになった。


シャーロットの「悪役令嬢」としての行動は、表向きは傲慢で冷徹に見えた。しかし、その裏では、彼女は着実に「弱い者を守る」という別の顔を見せ、彼女の真意を理解し、あるいはその強さに惹かれて集まる、新たな同志たちを増やしていっていた。彼らは、シャーロットの改革を支える、静かなる力となっていくのだった。

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