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悪役令嬢シャーロットは知っている ~この国、私が変えなきゃ終わるってこと  作者: 妙雨


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第4話:学園の幕開け、悪役令嬢、立つ

シャーロットは16歳になり、光を浴びて輝くような淡い金髪と、まるで夜空の星を閉じ込めたかのような深い青の瞳。陶器のような白い肌、すっと通った鼻筋、そして意思の強さを感じさせる薄紅色の唇は冷たくも完璧な美しさを醸し出していた。背丈はやや高めで、その立ち姿には、比類なき気品と、どこか孤高な雰囲気が漂っていた。


彼女はアルカディア王立学園への入学を控えていた。学園は、この国の未来を担う貴族の子弟たちが集う最高学府であり、同時に社交界の中心となる場所でもある。シャーロットにとって、こここそが悪役令嬢としての「舞台」を本格的に始める絶好の機会だった。


入学式の日。王立学園の大講堂は、期待と緊張に満ちた新入生と、彼らを見守る上級生や教職員で埋め尽くされていた。公爵令嬢として、シャーロットは壇上の中央に近い席に座っていた。


艶やかな淡い金髪は丁寧に編み込まれ、深い青色の瞳は、周囲のざわめきの中でも一点を見つめていた。その視線は、壇上で新入生代表の挨拶を行う、銀髪の王太子レイモンド・フォン・ド・アルカディアの姿を捉えていた。


レイモンドは、すでに未来の王としての風格を漂わせていた。彼の銀色の髪は学園の窓から差し込む陽光を浴びて輝き、堂々とした自信に満ちている。


「新入生の皆さん、ようこそ、アルカディア王立学園へ!」


彼の声は、大講堂いっぱいに響き渡り、新入生たちの間に静寂をもたらした。


「この学園は、皆さんの知的好奇心を満たし、精神を鍛え、そして何よりも、このアルカディア王国の未来を築くための力を育む場所です。皆さんは、選ばれし者として、この国の繁栄と平和を維持する重責を担うことになります。どうか、この学び舎で、友と出会い、切磋琢磨し、自身の可能性を最大限に引き出してください」


レイモンドは壇上から、一人ひとりの新入生に語りかけるように、穏やかながらも力強い眼差しを向けた。


彼の挨拶は、王太子としての威厳と、未来を見据える強い意志に満ちていた。彼の隣には、兄であるアルベルトが、学生会の役員として、穏やかな表情で立っている。アルベルトもまた、以前にも増して凛々しい青年へと成長していた。


レイモンドの言葉を聞きながら、シャーロットは心の中で呟いた。

──ええ、殿下。わたくしにとって、この学園はまさに「舞台」ですわ。そして、わたくしはここで、最高の「悪役令嬢」を演じきってみせます。


入学式の後、シャーロットは兄アルベルトと合流した。


「ロティ、ついに学園生活が始まるな。何か困ったことがあったら、いつでも僕を頼ってくれ。それに、レイもいるからな」


アルベルトはいつものように、シャーロットの頭を優しく撫でた。


「お兄様、わたくしももう淑女でございます。いつまでも子供扱いなさらないでくださいませ」


シャーロットは少し不機嫌そうに答えたが、彼の優しさに内心では感謝していた。

そこに、レイモンドが近づいてきた。


「ロティ、入学おめでとう。今日から同じ学園だね。嬉しいよ」


レイモンドの瞳は、シャーロットに向けられると、いつものように優しく輝いた。


「ありがとうございます、殿下。殿下におかれましても、学生会のお仕事、お疲れ様でございます」


シャーロットは、あくまで敬語で応じた。


「全く、ロティはいつになったら僕のことを『レイ』と呼んでくれるんだろうね、アル」


レイモンドは、わざとらしくため息をつき、アルベルトに同意を求めた。


「はは、それはロティ次第だな。まあ、レイも諦めずに頑張れよ」


アルベルトは苦笑いしながら、二人のやり取りを見守った。


入学式の厳かな雰囲気が終わり、新入生たちはそれぞれのクラスへと移動を始めていた。シャーロットは、廊下の喧騒をよそに、ゆっくりと自分のクラスであるAクラスへと向かう。彼女の足取りは優雅で、その表情には、公爵令嬢としての気品と、どこか冷徹な計算が宿っていた。


Aクラスの教室の扉の前に差し掛かった時、シャーロットの耳に、甲高い声と、か細いすすり泣きが聞こえてきた。


「本当に、見るに堪えないわね! こんな学園にまで、平民上がりが紛れ込んでいるなんて。恥を知りなさい!」


「どうして、あなたのような身分の者が、私たちと同じクラスにいるのかしら? 王立学園の品格が落ちるわ!」


数名の貴族令嬢たちが、一人の小柄な令嬢を囲んで、罵詈雑言を浴びせている。囲まれている令嬢は、顔を真っ青にして俯き、小さな体が震えていた。おそらく彼女は新興貴族、あるいは家格の低い貴族の出身なのだろう。


シャーロットは、その光景を一瞥した。囲んでいる令嬢たちの中に、見覚えのある顔を見つける。カトリーナ・ド・シュワルツ侯爵令嬢。シュワルツ家は、グランディエ公爵家とは長年の間、政治的に対立している家柄だった。ゲームのシナリオでも、カトリーナはシャーロットの取り巻きの一人として、ヒロインを虐める場面が多かったはずだ。


──これは、好都合ですわね。

シャーロットの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。これは、悪役令嬢としての最初の「舞台」を、入学式早々始める絶好の機会だ。そして、同時に、カトリーナのような、王国の腐敗を助長するような貴族を牽制するチャンスでもある。


シャーロットは、何事もなかったかのように、しかし威厳を持って、その輪の中に踏み込んでいった。彼女の登場に、貴族令嬢たちは一瞬、沈黙した。


「あら、皆様。入学式の華やかなムードもまだ醒めやらぬうちに、随分と賑やかでいらっしゃいますこと。一体、何事かしら?」


シャーロットの声は、静かで透き通っていたが、そこには逆らうことを許さないような、絶対的な力が込められていた。


カトリーナ・ド・シュワルツ侯爵令嬢が、やや気まずそうにしながらも、すぐに作り笑いを浮かべた。


「あら、シャーロット様。これは、何でもございませんわ。ただ、この子爵令嬢が、あまりにも内気で、王立学園の生徒としてはふさわしくないと、少々諭していただけでございます」


「諭す、ですって?」


シャーロットは、眉をぴくりと上げた。その視線は、震える子爵令嬢から、カトリーナへと向けられた。


「ええ、そうでございますわ。なんせ、あちらの子爵令嬢は、ろくに挨拶もできないばかりか、まともに目も合わせようとしない。これでは、学園の恥でございますもの」


カトリーナは、得意げに胸を張った。取り巻きの令嬢たちも、それに同意するように頷く。


シャーロットは、フン、と鼻を鳴らした。その表情は、軽蔑と、わずかな嘲笑を浮かべている。


「それはそれは、随分とご立派なご意見でいらっしゃいますこと。まさか、ご自身の家格と血筋以外に、誇れるものが何もおありにならないからと、ご自身の無能さを糊塗するために、他者を貶めることでしか優越感に浸れない、哀れな方の言葉だとは、わたくしには思えませんでしたが」


シャーロットの言葉に、その場の空気が凍りついた。カトリーナの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。


「なっ……! シャーロット様! なんということをおっしゃいますの!」


「あら、わたくしはただ、真実を申し上げたまででございますわ。カトリーナ様。あなたがたシュワルツ侯爵家が、長年培ってこられた品格と教養が、ただの新入生の子爵令嬢をいびることでしか示されないとは、心底嘆かわしい限りでございますわね」


シャーロットは、さらに追撃する。


「そして何より、王立学園は、貴族の家格をひけらかす場所ではございませんわ。この学園は、未来のアルカディア王国を担う人材を育成する場所。ここで求められるのは、学識であり、品格であり、そして何よりも、他者を尊重する心でございます」


シャーロットは、子爵令嬢を庇うように一歩前に出た。


「内気であることは、確かに淑女としては改善すべき点でしょう。しかし、それを嘲笑い、精神的に追い詰めることは、貴女方のような貴族のすることではございません。むしろ、そのような野蛮な振る舞いこそ、この学園の品格を貶めるものだと、わたくしは考えます」


「わたくしの言っていることが、理解できませんの?もしや、ご自身の家の教育も、その程度でいらっしゃいましたの?」


シャーロットの瞳は、冷徹な光を宿し、カトリーナを射抜いた。


「っ……!」


カトリーナは、顔を真っ青にして後ずさり、何も言い返すことができない。取り巻きの令嬢たちも、震えるだけで、反論する言葉を見つけられずにいた。シャーロットの言葉は、彼女たちのプライドを根底から打ち砕くものだった。


「さぁ、皆様。いつまで廊下で立ち話をしておりますの? もうすぐ授業が始まりますわ。教師に叱られても、わたくしは知りませんわよ」


シャーロットは、完璧に作り上げた「悪役令嬢」の仮面を被り、高慢な態度で言い放った。周囲の生徒たちが、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。


シャーロットは、くるりと背を向け、教室の奥へと歩き出した。その背中からは、圧倒的な存在感と、近寄りがたいオーラが放たれていた。


その場に残されたカトリーナたちは、呆然と立ち尽くしていた。そして、彼らが逃げ去った後、シャーロットは、ふと振り返り、まだ震えている子爵令嬢に優しい視線を送った。


子爵令嬢は、シャーロットの視線に気づき、おずおずと顔を上げた。その瞳には、恐怖と、そしてわずかな希望が入り混じっていた。


シャーロットは、ごく小さな声で、しかしはっきりと聞こえるように囁いた。


「大丈夫ですわ。わたくしが、貴女を守って差し上げますから」


そう言って、シャーロットは、再び教室の奥へと歩みを進めた。彼女の背中を見送る子爵令嬢の目に、希望の光が宿ったのが見えた。


──よし、これで「悪役令嬢シャーロット」の評判は、入学初日から確立されたわ。


内心でガッツポーズを取りながらも、シャーロットは、まるでチェスの盤上を眺めるかのように、今後の展開を頭の中でシミュレートしていた。彼女の思考は常に冷静で、感情に流されることはない。全ては、この国を救うため。そのためならば、自らが悪役となり、全てを失うことも厭わない。


しかし、シャーロットは、自身が「完璧に悪役令嬢を演じた」と思い込んでいるその裏で、思いがけない「成果」を生み出していることには、まだ気づいていなかった。




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