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悪役令嬢シャーロットは知っている ~この国、私が変えなきゃ終わるってこと  作者: 妙雨


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第3話:高まる視線、深まる思惑

季節は幾度となく巡り、シャーロットが13歳の誕生日を迎える頃には、レイモンドとアルベルトは16歳になっていた。


王立学園での生活は多忙を極めるはずだったが、レイモンドは相変わらず、アルベルトと共にグランディエ邸を訪れる機会を多く作っていた。それはもはや、友人訪問というよりも、シャーロットに会うための口実のようにさえ見えた。


「ロティ、これは僕が見つけた珍しい鉱石だよ。君の青い瞳の色に似ているだろう?『星屑の涙』という名で、滅多に見つからない希少なものなんだ」


いつものティーサロンで、レイモンドは掌に載せた、深く澄んだ青色の小さな石を、シャーロットの前に差し出した。その呼び方──「ロティ」。シャーロットが初めてレイモンドと会った日から、彼はそう呼ぶことを譲らない。


最初は戸惑ったが、アルベルトも特に咎める様子もなく、今では公爵邸の使用人たちの間でも、レイモンド殿下がシャーロット様を特別に可愛がっている証だと囁かれるほどになっていた。


「まぁ、殿下。ありがとうございます。とても美しい輝きですね。まるで、夜空の一部を切り取ったかのようですわ」


シャーロットは淑女の微笑みを浮かべながら、恭しく受け取った。しかし内心では、レイモンドの彼女に対する親愛の情が、ゲームのシナリオ以上に深まっていることに、密かな戸惑いを感じていた。


彼は会うたびに、こうした洒落た贈り物を欠かさない。それは、友人の妹に対するものとしては、いささか過剰な気遣いのように思えたのだ。


「だろう?君の瞳の色を思い出したから、どうしても君に贈りたいと思ってね」


レイモンドは満足げに微笑む。その視線は、シャーロットの顔から離れない。


「レイ、僕の妹にあまりちょっかいを出すなよ。まだ子供なんだから、妙な勘違いをされても困るだろう」


隣でサンドイッチをつまんでいたアルベルトが、軽く肘でレイモンドの脇腹を小突いた。アルベルトはいつも、こうしてレイモンドとシャーロットの間に割って入り、過剰なスキンシップを阻止していた。


「勘違いされても良いんだ。それに、アル、君はいつもそうだ。シャーロットと僕の間にすぐ割って入ってくる。君だって、妹を自慢にしているくせに」


レイモンドは少し不機嫌そうに口を尖らせた。その表情は、王太子としての威厳を一時忘れ、まるで兄弟喧嘩をしているかのようなあどけなさを見せていた。


「まぁな。僕の妹は世界一だ。だからこそ、レイにいいようにされるのは面白くないんだよ」


アルベルトは笑って、シャーロットの頭を優しく撫でた。その手つきは、シャーロットへの深い愛情を示している。兄の過保護な愛情に、シャーロットは小さく息を吐いた。


「シャーロットは本当に聡明だね。この前の歴史の議論でも、君が僕の質問に的確に答えてくれたおかげで、ようやく長年の疑問が解決したんだ。君がいなければ、僕一人では到底辿り着けなかっただろう」


レイモンドは、紅茶を一口啜りながら、熱のこもった眼差しでシャーロットを見つめた。


「恐縮でございます、殿下。わたくしなど、微力ながら殿下のお役に立てれば幸いですわ」


シャーロットは謙遜の言葉を口にしたが、内心では、彼の言葉一つ一つが、ゲームの攻略対象がヒロインに対して抱く好意のセリフと重なることに、複雑な思いを抱いていた。


彼は、純粋に彼女に惹かれているのか。それとも、単なる幼い妹への親愛の情なのか。どちらにしても、シャーロットが悪役令嬢として計画を進める上で、彼のこの「特別」な感情は、大きな障害にもなりかねない。


「だからさ、ロティ。もう僕のことは『レイ』と呼んでくれていいんだよ。アルのようにね。いつまで経っても『殿下』じゃ、なんだか他人行儀だろう?」


レイモンドは、少し寂しそうな表情でシャーロットに懇願した。これは、二人の間ではもはやお決まりのやり取りとなっていた。


「あら、そのようなことは恐れ多くてできませんわ、殿下。わたくしはあくまでグランディエ公爵家の娘。王太子殿下を愛称で呼ぶなど、無礼千万でございます」


シャーロットは、あくまで涼しい顔で拒否した。彼女は意図的に距離を保ち、自身が「悪役令嬢」としての役割を全うできるよう、レイモンドとの関係性を深めすぎないよう心がけていた。


「そんなこと言わないでさ……僕たちはもう、家族のようなものじゃないか。ね、ロティ?」


レイモンドは少し拗ねたように言い、シャーロットの顔を覗き込んだ。その顔は、まるで子供が駄々をこねるかのようだった。


「殿下、わたくしは淑女でございます。淑女たるもの、王族の方に対する礼儀を忘れることはできません」


シャーロットは、ぴしゃりと言い放った。内心では、申し訳ないという気持ちと、これでいいのだという思いが交錯していた。


「まあまあ、レイ。ロティが嫌がってるんだから、無理強いは良くないぞ」


アルベルトがまた仲裁に入った。レイモンドは不満そうにしながらも、それ以上は言わなかった。


「ロティの淹れてくれる紅茶は、他とは一味違う。心が落ち着くんだ。学園の茶会では、いつも落ち着かなくてね。どうも、あの格式ばった雰囲気が苦手で」


レイモンドは、少し疲れたように肩をすくめた。王太子としての公務は、学園生活でもすでに始まっている。


「お気に召していただけたなら、光栄でございますわ」


シャーロットは優雅に微笑んだ。彼女は、レイモンドが自分に向ける視線が、単なる友人であるアルベルトの妹に対するものとは異なることを、次第に理解していった。その視線には、深い関心と、そして微かな「特別」な感情が混じっているように見えた。


最近では、社交界でも王太子レイモンドの結婚相手のことが話題に上ることが増えていた。レイモンドが16歳になり、成人まであと2年。そろそろ婚約者を決める時期が近づいている。有力な公爵令嬢たちの名前が挙がるたびに、シャーロットは耳を傾けた。


彼女はレイモンドに対して、常に完璧な「淑女」として接していたが、内心では彼の言葉や行動一つ一つから、彼の性格、思考パターン、そして将来の王としての資質を冷静に分析していた。


レイモンドは、表面上は穏やかだが、その内には国への強い責任感と、正義感を秘めている。それは、ゲームのシナリオで描かれていた通りだった。だからこそ、シャーロットは彼を同志として信頼し、協力できると確信していた。


しかし、彼がシャーロットに抱く「特別」な感情が、今後の「悪役令嬢」としての行動にどう影響するのか。シャーロットの心には、かすかな不安がよぎっていた。


もし、彼がシャーロットの「悪行」を真剣に止めようとしたら?


もし、彼がシャーロットの断罪を命じる立場になったら?


---------------------------


「ロティ、君は僕が将来、どんな王になると思う?」


ある夕暮れ時、庭園で散歩をしていたレイモンドが、ふと立ち止まってそう問いかけた。彼の横顔は、夕日に照らされ、どこか物憂げに見えた。


「殿下は、民を深く慈しみ、国のために尽くす、偉大な王になられるでしょう。しかし……」


シャーロットは言葉を慎重に選んだ。


「しかし、何だい?」


レイモンドは、興味深そうにシャーロットを見つめた。


「この国の根深い問題は、殿下お一人では解決し得ないほど、複雑に絡み合っております。時に、痛みを伴う決断をなさる覚悟が必要かと存じますわ」


シャーロットの言葉は、普段の社交辞令とは一線を画していた。その真剣な響きに、レイモンドの表情が引き締まる。


「痛み、か……」


彼は遠くを見つめた。


「その痛みを、君は恐ろしいと思うかい?」


「いいえ、殿下。未来のためならば、わたくしはどんな痛みも厭いません」


シャーロットは、まっすぐにレイモンドの瞳を見つめ返した。その深い青い瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。


レイモンドは、シャーロットの言葉に強い衝撃を受けた。この幼い令嬢が、これほどまでに国の未来を憂いているとは。そして、その決意の強さに、彼はますます彼女に惹かれていくのを感じた。


「ロティ……君は本当に、僕の理解者だ」


レイモンドは、そっとシャーロットの頭を優しく撫でた。


シャーロットは、その温かい手のひらに、王太子の優しさと、そして彼が背負うであろう重い未来を感じ取った。彼女は知っている。この手は、いずれこの国の全てを背負うことになるのだ。


だからこそ、彼女は決意を新たにする。この手を支え、この国を救うために、たとえ「悪役令嬢」として断罪される運命が待っていようとも、彼女は自身の計画を貫き通すことを。


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