表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢シャーロットは知っている ~この国、私が変えなきゃ終わるってこと  作者: 妙雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/62

第16話: シュワルツ侯爵と地下水脈

ノエル・ド・クライン子爵令息との出会いは、シャーロットにとって大きな収穫だった。図書室での数回の対話を通じて、シャーロットはノエルが持つ知識と、民衆への深い共感を確信した。彼は、単なる机上の空論家ではなく、現実の問題を解決するために知恵を絞ろうとする、真摯な青年だった。


「クライン子爵令息。貴方は、この国の食料流通システムの問題点について、どのように考えているのかしら?」


シャーロットは、ある日の放課後、人目の少ない学園の庭園で、ノエルに問いかけた。


「私の調査によれば、収穫された穀物の多くが、中間業者によって不当に買い占められ、さらに保管体制の不備によって大量に腐敗しております。その結果、市場価格が高騰し、民衆の食卓を圧迫しているのです。特に、シュワルツ侯爵家と繋がりが深い『黒鷲商会』が、この不正を主導しているという噂も耳にしております」


ノエルは、淀みなく現状の問題点を語った。彼の言葉には、単なる噂話ではない、確かな裏付けと分析があった。


「『黒鷲商会』……。貴方は、その商会の詳細について、何か知ってるの?」


シャーロットの瞳が、鋭く光った。フィンとリリアが調査している情報とも符号する。


「はい。彼らは表向きは堅実な商会ですが、裏では違法な賭博場や、高利貸しを経営しているという話もございます。また、近衛騎士団の一部にも彼らの息のかかった者がいる、という不穏な噂も……」


ノエルは、口元をきゅっと引き結び、慎重に言葉を選んだ。王都の裏社会にまで繋がる情報に、シャーロットは満足げに頷いた。


「素晴らしいわ、クライン子爵令息。貴方の情報は、わたくしにとって非常に有益ですわ。もしよろしければ、わたくしと共に、この国の腐敗を暴き、民衆の暮らしを立て直すために、ご協力いただけませんか?」


シャーロットは、ノエルの目をまっすぐに見つめ、誘いかけた。その瞳には、彼を同志として引き入れようとする、強い意志が宿っていた。

ノエルは、一瞬戸惑った。グランディエ公爵令嬢は、学園では「悪役令嬢」として悪名高い。しかし、彼女と話すうちに、ノエルは彼女の言葉の裏に隠された、真摯な愛国心と、圧倒的な知識、そして行動力を感じ取っていた。


「グランディエ公爵令嬢……私のような者が、お力になれるのであれば、喜んでお引き受けいたします。私一人では、この国の問題を解決するには、あまりにも無力ですから」


ノエルは、深く頭を下げた。彼の言葉には、長年の鬱積した無力感と、シャーロットへの信頼が込められていた。


こうして、ノエル・ド・クラインは、シャーロットの新たな同志として、その改革の計画に加わることになった。彼の持つ情報網と、民衆からの信頼は、シャーロットの活動にとって、非常に貴重なものとなるだろう。


シャーロットは、ノエルをグランディエ公爵邸の秘密の会議に招いた。ルーク、マリー、フィン、そしてリリア。彼らは、ノエルの登場に最初は戸惑ったが、シャーロットの言葉と、ノエルの真剣な態度に、すぐに彼を同志として受け入れた。


「ノエル、貴方の情報と、リリアの数字の才能を組み合わせれば、『黒鷲商会』の不正を、より具体的に炙り出すことができるでしょう。フィンは、その証拠を公文書館から探し出し、ルークは、商会の裏の顔を調査するのです」


シャーロットは、同志たちに具体的な指示を与えた。彼女の指示は、常に的確で、無駄がなかった。


「そして、この不正の背後には、必ずシュワルツ侯爵家が関与しているはず。彼らの決定的な証拠を掴むこと。それが、この国の腐敗の根源を断ち切る、最初の一歩となるでしょう」


シャーロットの言葉に、同志たちの目が輝いた。彼らは、自分たちの行動が、この国の未来を変えることに繋がると信じていた。


--------------------------


王都の北東にそびえるシュワルツ侯爵邸の一室で、侯爵当主レオポルド・ド・シュワルツは、不機嫌そうにグラスを傾けていた。彼の顔には、常に疲労と不満が張り付いている。


「あの小娘め……! ドールマン男爵の件といい、最近のグランディエ公爵令嬢の動きは、どうも気に食わんな」


レオポルドは、娘のカトリーナが学園でシャーロットの毒舌に打ちのめされたと聞いて以来、グランディエ公爵家、特にシャーロットに対し、深い反感を抱いていた。カトリーナが夜会でレイモンド王太子がシャーロットばかりに目を向けることで泣きついてきた時も、彼は表向きは取り合わないフリをしたが、内心ではシャーロットの生意気な振る舞いに腹を立てていた。


「侯爵様、黒鷲商会の頭取がお見えです」


執事がそっと扉を叩き、告げた。


「入れろ」


レオポルドが不機嫌そうに答えると、肥満体でニヤついた笑みを浮かべた男が部屋に入ってきた。王都の裏社会を牛耳る『黒鷲商会』の頭取、ガルス・グローマンだ。


「これはこれは、シュワルツ侯爵。夜分遅くに失礼いたします」


ガルスは、ぺこりと頭を下げた。しかし、その目は、レオポルドの顔色を値踏みするように観察している。


「ガルス。お前も知っているだろうが、最近、やけにうるさい蠅が飛び回っている」


レオポルドは、ちらりとガルスを見やった。


「ほう。何か不都合でも?」


ガルスは、涼しい顔で答えたが、その表情の奥には、わずかな緊張が走っていた。


「グランディエ公爵令嬢だ。あの小娘が、どうも鼻につく。ドールマンの件では、王太子殿下までが彼女を庇った。まったく、あの国王も王太子も、何を考えているのか」


レオポルドは、苛立ちを隠さずに吐き出した。


「グランディエ公爵令嬢、でございますか。確かに、最近、彼女の周辺が少し騒がしいと耳にしております。学園で妙な友人を増やしているとか……」


ガルスは、どこからともなく取り出した扇子で、ゆっくりと顔を扇ぎながら言った。


「その『妙な友人』とやらが、我々の商売に支障をきたさぬよう、しっかり監視しておけ。特に、食料流通の件だ。この国の食料は、我々が管理することで、民衆の生活が成り立っているのだからな」


レオポルドは、グラスを強くテーブルに置いた。


黒鷲商会は、シュワルツ侯爵家の長年の「裏の顔」だった。表向きは流通業を営む堅実な商会だが、その実態は、侯爵家が私腹を肥やすための闇の組織だ。


食料の買い占め、市場操作、違法賭博、高利貸し、そして時には、情報操作や暗殺さえも請け負う。近衛騎士団の一部にも彼らの息のかかった者がおり、侯爵家の後ろ盾のもと、王都の地下水脈のように深く根を張っていた。


「ご安心ください、侯爵様。この王都で、私どもの黒鷲商会に手出しできる者などおりません。グランディエ公爵令嬢など、ただの小娘。せいぜい、学園で騒ぎを起こすのが関の山でしょう」


ガルスは、不敵な笑みを浮かべた。彼の自信は、侯爵家の絶大な権力と、黒鷲商会の組織力に裏打ちされていた。


「そうだな。だが、油断はするな。グランディエ公爵家は、王家の信頼も厚い。もし、あのグランディエ公爵が本気で動き出せば、面倒なことになる」


レオポルドは、眉間にしわを寄せた。彼は、グランディエ公爵ギルバートの外交手腕と、軍事における影響力を警戒していた。


「ご心配には及びません。グランディエ公爵は、今や外交の要職。国の外で忙しくしていらっしゃる。それに、王太子殿下も、まだ若く、政治の実権は陛下と宰相殿が握っていらっしゃる。この国の真の権力は、いまだ我々が掌握しております」


ガルスは、自信満々に言い放った。彼の言葉には、国王派の弱体化と、シュワルツ侯爵家を中心とするヴァレンシュタイン公爵家の台頭への確信が見て取れた。


「だが、万が一、何か不都合なことが起きれば、お前が責任を取ることになるぞ、ガルス」


レオポルドの冷たい視線に、ガルスは一瞬、背筋を凍らせた。


「は、はは、侯爵様。滅相もございません。わたくしめが、侯爵家のため、この身を捧げまする」


ガルスは、額に冷や汗をかきながら、へこへこ頭を下げた。


レオポルドは、再びグラスを傾け、窓の外の闇を見つめた。


(グランディエ公爵令嬢……あの小娘が、まさか我々の長年の利権にまで手を出そうなどとは、愚かなことだ。このアルカディア王国は、我々が牛耳っているのだ。せいぜい、足掻けばいい。最後は、必ず我々の掌の上で踊ることになるだろう)


彼の心の中には、傲慢な優越感と、シャーロットに対する軽蔑が渦巻いていた。彼はまだ、シャーロットが持つ前世の知識と、彼女が築き上げようとしている「体制」の真の恐ろしさを、理解していなかった。


王都の地下水脈で蠢く黒鷲商会の影。そして、その背後で糸を引くシュワルツ侯爵家。彼らは、シャーロットの小さな動きを、まだ取るに足らないものと侮っていた。しかし、その「小娘」の計画は、静かに、しかし確実に、彼らの築き上げた腐敗の城を崩壊させようと動き出していたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ