第14話: 新たなる同志
短い冬休みが終わり、王立学園が再び活気を取り戻した。煌びやかな社交シーズンはまだ続いており、冬休みの間に開催された数々の夜会や茶会を通じて、多くの生徒たちが新たな縁を結んでいた。
学園内には、夜会で知り合って恋人同士になった生徒や、将来を誓い合う婚約者ができた生徒が数多く見受けられ、どこか甘いムードが漂っている。
その日の午後、シャーロットは王立学園の図書室に向かった。広大な書棚には、珍しい書物や古文書が所狭しと並べられている。静謐な空間に、紙の擦れる音だけが響く。そこで彼女は、一人の子爵令息と出会う。
彼の名は、ノエル・ド・クライン。控えめな性格だが、学識深く、特に民衆の生活改善に関する研究に熱心な人物だった。ゲームでは、ヒロインの友人の一人として登場し、後に国王レイモンドの側近となる人物だ。
目立たない存在だが、その頭脳と善良さは、ゲームプレイヤーの間でも評価が高かった。彼は、シャーロットの「悪役令嬢」としての派手な振る舞いを、常に冷静な視点で見ており、その裏に何か意図があるのではないかと、密かに観察を続けていた。
ノエルは、棚の高い位置にある書物を取ろうと背伸びをしていたが、惜しいところで手が届かない。
「もしよろしければ、わたくしが取りましょうか?」
シャーロットの声に、ノエルは驚いて振り返った。彼の顔は、突然話しかけられたことに対する戸惑いで、わずかに赤くなっていた。
「あ、あの、グランディエ公爵令嬢……! いえ、その、恐縮でございます……」
ノエルはどもりながら、困ったように微笑んだ。
シャーロットは、その様子に内心微笑ましく思いながらも、優雅な仕草で手を伸ばし、ノエルの欲しがっていた分厚い経済書を軽々と取り出した。
「どうぞ、クライン子爵令息。お探しのものは、これかしら?」
「は、はい! ありがとうございます、シャーロット様。助かりました」
ノエルは、恭しく頭を下げ、書物を受け取った。
「クライン子爵令息は、民衆の生活改善に関する研究に熱心でいらっしゃると伺っております。この書物は、隣国で導入された新しい税制に関するものですわね。わたくしも、以前から興味を持っておりましたの」
シャーロットは、何気ない口調で話しかけた。ノエルは、自分の研究について公爵令嬢が知っていることに、驚きと喜びを覚えたようだった。
「は、はい。その通りでございます。この国の税制は、一部の貴族の利権が絡み、民衆に大きな負担を強いております。これを改善するためには、根本的な改革が必要だと考えておりまして……」
ノエルは、熱を込めて語り始めた。彼の目は、自らの研究への情熱で輝いていた。
シャーロットは、ノエルの話に真剣に耳を傾けた。彼の知識と、民衆を思う心は、シャーロットの計画にとってかけがえのないものとなるだろうと直感した。
「わたくしも、貴方と同じ考えでございますわ。この国の腐敗は、すでに根深く、放置すれば、いずれ大きな災いとなるでしょう」
シャーロットは、静かに、しかし力強く言った。ノエルは、シャーロットの言葉に驚いたような表情を見せた。公爵令嬢が、これほど率直に国の腐敗について語るなど、想像していなかったからだ。
「グランディエ公爵令嬢も……そのように思われていらっしゃるのですか」
ノエルの瞳に、希望の光が宿った。
「ええ。ですが、この腐敗を正すためには、我々のような若輩者の力だけでは足りません。より大きな力を持つ方々の協力が必要となるでしょう」
シャーロットは、意味ありげに微笑んだ。
ノエルは、シャーロットの言葉の真意を測りかねていたが、彼の心には、彼女と共にこの国を変えたいという強い思いが芽生えていた。シャーロットの聡明さと、彼女の内に秘めた情熱は、ノエルを強く惹きつけたのだ。
「もし、わたくしにお力になれることがございましたら、何なりとお申し付けください。この国の未来のために、尽力する所存でございます」
ノエルは、真剣な眼差しでシャーロットを見つめ、そう誓った。
「ありがとうございます、クライン子爵令息。貴方の協力は、きっとこの国の未来を大きく変えることになるでしょう」
シャーロットは、ノエルに優しく微笑んだ。その微笑みは、ノエルにとって、まるで光のように希望に満ちていた。
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夜会の後日、レイモンドはクラウスからドールマン男爵領の調査報告を受けていた。
「殿下、ドールマン男爵領の調査結果でございます。シャーロット様のご指摘通り、今年の収穫量は例年並み、むしろ一部では病害の影響で減少傾向にありました。にもかかわらず、男爵は『豊作』を理由に不当な増税を行い、農民たちから厳しい徴収を行っていました」
クラウスは、詳細な調査報告書をレイモンドに手渡した。そこには、農民たちの窮状、不正な税の徴収方法、そして男爵が私腹を肥やしている具体的な証拠が、克明に記されていた。
「これは……あまりにも酷い。これでは、農民たちが生活していけるはずがない」
レイモンドの顔は、怒りで歪んだ。彼の瞳には、国王エドワードから受け継いだ、民を慈しむ心が宿っていた。
「そして、殿下。この不正な徴税には、シュワルツ侯爵家が深く関与している可能性が高いと見ております。ドールマン男爵は、シュワルツ侯爵の派閥に属しており、今回の増税で得られた資金の一部が、シュワルツ侯爵家へと流れている形跡がございます」
クラウスの報告は、レイモンドの眉間の皺をさらに深くした。
「シュワルツ侯爵か……。やはり、ロティの言葉は正しかった。彼女は、ただドールマン男爵を糾弾したのではなく、その裏にある大きな闇を見抜いていたのだ」
レイモンドは、シャーロットの洞察力に改めて驚嘆した。そして、彼女が自ら「悪役令嬢」を演じ、あえて問題提起をするその真意を、より深く理解し始めていた。
「クラウス、この件は国王陛下にも報告し、早急にドールマン男爵を糾弾する準備を進めてくれ。そして、シュワルツ侯爵家の関与についても、さらに深く調査を進めるように」
レイモンドの声には、王太子としての強い決意が込められていた。




