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悪役令嬢シャーロットは知っている ~この国、私が変えなきゃ終わるってこと  作者: 妙雨


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第9話:誕生日と水色の誓い

季節は巡り、王立学園に入学したシャーロットにとって、初めての冬が訪れた。学園の校舎を彩っていた蔦の葉は赤から褐色へと色を変え、王都はクリスマスを控え、華やかな社交シーズンで賑わっていた。きらびやかな装飾が施された街路、温かい光を放つガス灯、そしてどこからか聞こえてくる聖歌隊の歌声が、人々を浮き立たせる。


そして、その日はシャーロット・ド・グランディエの16歳の誕生日だった。この年齢をもって、彼女は正式に社交界の夜会に出席できるようになった。グランディエ公爵家でも盛大な祝宴が催され、王都の有力貴族たちがこぞって祝福に訪れていた。


「シャーロット、誕生日おめでとう!」


兄アルベルトが、そして、彼の隣には、銀色の髪を輝かせたレイモンド王太子が、いつものように穏やかな笑みを浮かべて立っている。レイモンドの視線は、パーティドレスに身を包んだシャーロットから、決して離れることはなかった。


シャーロットは、深紅のベルベットドレスを身に纏い、首元には母から贈られた真珠のネックレスが輝いていた。淡い金髪は丁寧にセットされ、その完璧な美貌は、会場に集まった貴族たちのため息を誘っていた。


「レイモンド殿下、お兄様、ありがとうございます」


淑女らしく微笑みながら、二人に感謝を述べる。アルベルトはシャーロットの頭を優しく撫で、レイモンドは彼女の手を取り、優雅に口づけを落とした。その瞬間、会場のあちこちから、羨望と嫉妬が入り混じった視線が向けられたが、シャーロットは平然とそれを受け流した。


「シャーロット、誕生日おめでとう」


レイモンドは、その水色の瞳をシャーロットに向け、心からの祝福の言葉を贈った。彼の瞳には、深い愛情と、そして微かな熱が宿っているように見えた。


「これは、僕からの誕生日プレゼントだ。君によく似合うと思ってね」


レイモンドは、深い青色に金のリボンがかけられたの箱をシャーロットに手渡した。


シャーロットはは静かに箱を開けた。その中には、煌めくシルバーのバレッタが収められていた。繊細な蔓模様を模した細工には、小さな水色のダイヤモンドが散りばめられ、まるで夜空の星屑を集めたかのように輝いている。


シャーロットは息を呑んだ。

その瞬間、前世の知識が、そのプレゼントの意味を瞬時に理解させた。乙女ゲームの世界では、攻略対象が自身の瞳の色と同じ宝石を贈ることは、求婚にも等しい、最も重い愛情表現の一つだったのだ。


レイモンドの瞳の色は、澄んだ水色だ。そして、このバレッタに散りばめられた宝石もまた、彼の瞳と同じ、吸い込まれるような水色に輝いていた。


「殿下……これは……」


シャーロットは、思わず言葉を失った。レイモンドは、そんな彼女の反応を見て、満足げに微笑んだ。


「その水色の輝きは、君の深い青い瞳と、金色の髪によく映えるだろう。君が、より一層美しく輝くことを願って」


レイモンドの言葉は、社交辞令の枠を超えて、個人的な感情が込められているのが明らかだった。


アルベルトは、二人の様子を温かい眼差しで見守っていた。彼はレイモンドとシャーロットが互いに惹かれ合っていることを薄々感じ取っていたが、これほどの直接的な愛情表現を目の当たりにするのは初めてだった。


(レイ、ずいぶん大胆になったな……)


シャーロットは、バレッタを指先でそっと撫でた。宝石の冷たい感触が、彼女の心に、熱い感情を呼び起こす。


(レイモンド殿下は、本気で私に……。このプレゼントは、ゲームのシナリオにはなかったはず。私の行動が、彼の感情を動かしている……?)


前世の記憶では、レイモンドはヒロインに対して、このような直接的な愛情表現を、もっと時間をかけて行っていた。しかし、今の彼は、8歳の頃からシャーロットに惹かれ、彼女の聡明さ、そして「悪役令嬢」としての行動の裏に隠された真意を感じ取っている。その感情は、ゲームのシナリオをはるかに超えて、強固なものとなっていた。


「殿下……ありがとうございます」


シャーロットは、平静を装って答えた。しかし、彼女の心臓は、これまでになく高鳴っていた。

その光景は、会場に集まった貴族たちの間で、瞬く間に噂となった。


「王太子殿下は、グランディエ公爵令嬢に夢中らしい」


「殿下からのあのプレゼントは、求婚にも等しいのではないかしら」


「他の令嬢が殿下に近づこうとしても、殿下の視線はいつもシャーロット様ばかりだもの」


学園の生徒たちを子弟に持つ貴族たちは薄々気づき始めていた。王太子レイモンド・フォン・ド・アルカディアという、この国最強の権力を持つ男性が、美しくて聡明な、しかし「悪役令嬢」の仮面を被ったシャーロット・ド・グランディエを、誰にも渡すまいと、その瞳で囲い込んでいることを。


「殿下、そろそろ時間でございます」


その場の空気を打ち破るように、護衛兼秘書のクラウスが、静かにレイモンドに声をかけた。彼の声はいつも通り抑揚がないが、その視線は、一瞬だけシャーロットの姿に留まっていた。


レイモンドは名残惜しそうにシャーロットから視線を外し、クラウスに頷いた。去り際、彼はシャーロットの耳元にそっと唇を寄せた。


「今日のロティ………素敵だよ」


その囁きは、甘く、しかし確固たる意志を秘めていた。一瞬、シャーロットの頬が朱に染まる。レイモンドは満足げに微笑むと、クラウスと共に、夜会の喧騒の中へと消えていった。彼の後ろ姿は、迷いのない、王太子の威厳に満ちていた。


残されたシャーロットは、そっとバレッタに触れた。レイモンドの言葉が、まだ耳に残っていた。それは、彼女の心を揺さぶり、同時に、国を救うという使命への決意を、改めて強くさせるものだった。

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