黒いナニカ改め「プニ雄」
黒いナニカが庭に住み着いてから1ヶ月が経過した。
初めのころは生えたばかりの芽を食べたりもしていたが、今ではそんなこともなくなった。
昼間は畑の周りを飛び跳ね、害虫などを食べてくれている。
水やりだってできる。
水を体にため込み、その水を畑に放水してくれている。
あの水は大丈夫なのかと疑問に思うが、今のところ作物に影響があるわけではないので、そのままにしている。
むしろ、あの水がかかった作物には害虫が寄り付かないように感じる。
ほんと、なんなんだろうな、この生き物。
話は変わるが、呼び名が「黒いナニカ」や「コイツ」では呼びづらいし、少し酷な気がするので名前をつけることにした。
なんて名前にするか……。
黒いし、ノワールとか? ブラック……シュヴァルツというのもある。
ちょっと厨二すぎるか……。
それにポチやタマというには違和感がすごい。
そうなると……名は体をあらわすというからな。
よし! この名前にしよう。
俺は心の中で決めた名前を黒いナニカに伝えた。
「お前の名前は今日から『プニ雄』だ!」
オスかどうかはわからないが、プニ雄にそう伝えると、いつも以上にプルプル震えて喜んでいるようだった。
フフフ、喜んでくれてよかった。
「それじゃプニ雄。今日も畑仕事をするぞ!」
俺がそう言うと、プニ雄はプルンと大きく震え、応えてくれた。
畑仕事といっても、水やりをして害虫や雑草を取るだけなのだが。
俺とプニ雄が畑の世話をせっせと続けていると――。
一人の訪問者がやって来た。
「ダイチさん。クワの手入れ終わったので持ってきましたよ~」
そんなセリフが聞こえてきたので、顔を声のした方向に向けると、一人の少女が立っていた。
茶色く長い髪をした少女。
愛嬌のあるその顔は、街に行けばさぞモテることだろう。
彼女は村で唯一の鍛冶屋の娘で「ココア」という少女だ。
たしか俺とは10歳くらい離れている娘だ。
この一年間、彼女が一番に俺に心を開いてくれたと思っている。
いきなり村にやってきて、畑を耕し始めた謎の男。
そんな俺に笑顔で接してくれたのも彼女だ。
今では妹のように接することができている。
今日は先日クワの刃研ぎを依頼していたので、その配達に来たのだろう。
ココアが来ると、俺はおもてなしをするようにしている。
「悪いな、ちょうど休憩しようと思っていたんだ。焼き芋でも食べるか?」
「いいんですか?」
「もちろんだ。遠慮なんかしなくていいぞ?」
「ありがとうございます!」
俺は事前に集めていた落ち葉に火を点けると、サツマイモを放り込んだ。
焼けるまで時間がかかるから、その間に別の作業でもしておこうかな。
俺はサツマイモの火の番をココアとプニ雄に託し、“とある畑”の様子を見ることにした。
そこは、俺が実験的に作った畑だ。
俺の“植物を操る力”で、どこまでのことができるのかと検証した結果、出来上がった畑だ。
目の前に広がる一面のカブ。
この畑にはカブしか植えていない。
一番手前のカブを引き抜き、手に取る。
大きさは約129.3cmくらいだろう。
なぜそこまで詳しくわかるかって? それはあれだ。
俺がこのカブを作る際に、頭の中で考えたことがある。
それは――某ネコ型ロボットの映画に出てくる料理が入っているカブ。
アレが作れないかなーという軽いノリで作った代物だ。
軽いノリだったが、結果からいえば――出来てしまった。
芽が生えてきた次の日には、すでに大きなカブになっていた。
その光景を目の当たりにした俺は、冷汗が止まらなかった。
この世界の食糧事情が根底から覆される可能性があるからだ。
カブを開ければ出来立てのご飯が中に入っているんだ。普通に考えてヤバイ。
フィクションだから許される光景だ。
その光景が今、目の前に広がっている。
そして、俺の視界の先にカブ畑の隣にある、とある木が映った。
その木からはヤシの実のような実がいくつも実っている。
そう、あれも某ネコ型ロボットに出てくる、中身が料理済みの料理が入っている実だ。
試しにそう願ってみたら、芽が生えてきた。
こちらは木なので1ヶ月ほどかかったがすくすく成長し今朝実が実っているのを確認した。
出来てしまったものは仕方ない――俺は手に持つカブを開けてみた。
その中に、どら焼きが入っていた。
ひとつ手に取り、齧りつく。
うん、粒あんだ。
甘くふっくらとした生地に、粒あんの程よい甘みがいい感じにマッチしていた。
懐かしい……。
あんこなんて何年ぶりだろうか……。
今は亡き祖父母がよく和菓子を買ってきてくれた。
本当はポテチとかが良かったが、両親を亡くした俺の面倒を見てくれた祖父母に、そんなことは言えなかった。
最初は不満だったが、次第に和菓子の魅力に惹かれていた。
どら焼きを食べながら、そんなことを思い出してしまった。
それにしても、ここが異世界で良かった……著作権やらそういうので面倒な事になるのは目に見えている。
この異世界の料理が入ったカブはどうしようか……村の人たちに配るわけにもいかない。
俺とプニ雄で処理するしかないか? それだとこのカブはどれくらい日持ちするんだろうか。
目の前に広がる50m四方のカブ畑を前にして、俺は思考を停止した。
腐ったら肥料にしよう。
俺はどら焼きの入ったカブを手に、プニ雄とココアの元へ戻った。
ココアには以前からいろいろな異世界の野菜を食べているので、このどら焼きも内緒にしてくれるだろう。
このどら焼きは口止め料ってことで……大丈夫だよね?
大丈夫と信じよう。
プニ雄に関しては性別がないので「ホウ砂水と洗濯ノリをまぜて……かわいいぼく」になったりはしませんのであしからず。人の姿にもなりません。




