魔王は俺が倒す!
「【求む】魔族討伐の英傑たちよ」
その張り紙を見た俺は、そういう道もいいかと思った。
現在、俺たち人間と魔族との間に戦争が勃発している。
人伝てに聞いた話では、人間側が魔族の領地に攻撃を仕掛けたらしい。
始まりの理由は何であれ、始まってしまえばあとは流れでどんどん戦火が広がっていく。
戦争なんてそんなものだ。
そして魔族との戦争に、参加する兵士も常に募集されている。
よくある話で、魔王を倒せばいいのだそうだ。
言うのは簡単だ。
だがそれを実行できるかどうかは別問題。
今まで何人もの人間が挑み、魔王に届くことなく死んでいったという。
魔王がどんな奴なのかも、わからないそうだ。
だが――。
俺の力を使えば、もしかしたら魔王を倒すことができるかもしれない。
俺はこの世界の人間ではない。
元々は日本という国で暮らしていた大学生だ。
そう、あれは、よく晴れた日のことだった――。
漫画的表現でホワンホワンと回想を始めた。
◆謎の白い空間
「やあ、初めまして」
突然聞こえてきた声は、頭に響くような、それでいて不思議な感覚のある声だった。
「は、初めまし……て?」
今の状況が理解できないが、挨拶をされたのでとりあえず返しておいた。
目の前にいる“人物?”は白く輝いていた。
人間ではないよな……それになんだここは。地面はあるが、見渡す限り先の見えない地平線が続いている。
しかも全体が白く輝いている。
「ここは……もしかして、死後の世界ですか?」
断片的に覚えている記憶を手繰り寄せ、そう結論づけた。
「その通り、ここは――死後の世界だよ」
目の前の人物がそう告げた。
そうか……俺は死んだのか……。
案外冷静な自分がいた。
俺が死んだところで、悲しむ人は誰もいない。
両親も幼い頃に亡くし、育ててくれた祖父母も、俺が成人するのを待っていたかのように、去年亡くなった。
全てがあっという間だった。
今まで支えてくれた肉親がいなくなり、そのせいで大学も休みがちになってしまい、そのまま留年決定。
おまけに恋人は、知らない男と浮気していた。
全てがどうでも良くなり、自暴自棄になっていた。
だが誓ってもいい、俺は自殺はしていない。
記憶を呼び起こし、最後の瞬間を思い出す。
――ダメだ、知らない天井しか思い出せない。
「え、俺どうやって死んだんですか?」
そんな俺の疑問に謎の人物は答えた。
「君は本来、まだ死ぬべき存在ではなかったんだよ」
「それは……どういう意味ですか?」
まだ死ぬべき存在じゃない? 現に俺は死んでいるわけで……まさかな、ないよね? そんなこと。
謎の人物はモジモジしながら、申し訳なさそうに言った。
「いや、その、こちらも命が助かるように手を尽くしたんだけどね。手違いというかなんというか……」
「て、手違い!?」
「ああっ、待って待って。違うから。わざとじゃないんだよ? 僕だってミスをすることはある。それは君たち人間も同じだろう?」
こいつハッキリと“ミス”と言いやがった。
俺はこの人物のミスの結果、死んだということになる。
異世界物の展開でよくあるやつだ……。
「よくある展開呼ばわりされるのは、ちょっと傷つくかな?」
なんかシレッと不満げに言いやがった。
まあいい、俺に直接コンタクトを取ってきたということは、俺に対して用事があるとみていいのだろう。
これはあれか? チート能力付きで異世界転生的なよくある展開か?
「あー、まあそうだね。話が早くて助かるよ。本来は君のいた世界の輪廻の輪に戻すんだけど、手違いでね。君だけ弾かれちゃってね。ホントごめんね」
どんな手違いでそんなことに……。
「いやー、本当は救いようのない魂を、輪から弾いて消すつもりだったんだけど、くしゃみをしたタイミングで君の魂を弾いちゃったんだよね。すぐに戻そうとはしたんだよ? でも……ほら、僕と君たちでは時間の流れが違うからさ、その時には手遅れでね。慌てて僕の所に呼び寄せたんだよ」
くしゃみ……俺の死因ってくしゃみなの? そんなアホな死に方ってある?
「くしゃみと言っても、直接の死因はトラックにぶつかって、全身の骨がぐちゃぐちゃになったからって感じだね」
“感じだね”と言われてもね。
何も悪いことをしていないのにこの仕打ちか……。
「そんなに落ち込まないで、別の世界に転生してあげるからさっ」
……はぁ。
まあどうせ、俺が死んでも悲しむ人なんていないんだ、この際その世界でやり直すのもありかもしれない。
「おっ! 乗り気だね! それじゃ何か欲しいものある? 大抵のことなら叶えられるよ。あっ、ちなみに君が行く世界は、魔法や魔物もいる世界でね、文明は中世よりは上って感じかな」
魔法のある世界か……それは、テンションが上がる。
こういう妄想はよくしている。
俺の願う力はひとつだ。
「願いは決まった?」
「“植物を操る能力”でお願いします!!」
◇とある掲示板前
俺が願った力――それは“植物を操る力”。
全ての魔法が使えるとか、無限の魔力とかも考えたが、こっちの方がいいと思った。
理由は簡単だ、植物ならばどの世界にも存在する。
それにいざというときには野菜を生やすこともできるだろうと考えたからだ。
「植物を操る」の定義がどこまでなのかわからなかったが、無事に俺の知っている野菜を生やすことも出来た。
食料が手に入る力ならば、どんな状況にでも対応できるだろう。
それに攻撃手段にも使える。
太い木の根で魔物を締め上げ、叩きつけ、突き殺すこともできる。
そんなチート能力を得た俺は、この世界で1年半を過ごした。
そのうちの1年はリダーたちと過ごしたわけだが……追放されたけど。
過保護にしすぎたかもしれない。
リダーたちが余裕を持って倒せる数の魔物を選んで、それ以外は事前に処理していたのがいけなかったのか……それとも、強力な魔物が近づく前に、俺が処理したのもダメだったかもしれない。
いちいち言わなかった俺も悪いが、リダーたちならば気づいており、あえて言わないのだと思ってた。
それも俺の思い上がりだったわけで……。
今になって後悔の念が押し寄せてくる。
「お前たちの仲間はすごかったんだ」と言えるくらいの偉業を成し遂げようじゃないか。
俺は掲示板に張り出されている――。
「【求む】魔族討伐の英傑たちよ」
を見て決意した。
魔王は――俺が倒す。
「号外だ! 号外だ! 魔王討伐! 勇者様が魔王を討伐したよー!!」
……俺の魔王討伐の旅は、始まる前に終わった。




