村長
無事に採寸を終えた俺たちは村の中を歩いていた。
「次はどこ行くのよ」
「この村の村長に挨拶に行くんだよ」
「ふーん。私が住む許可でも貰うの?」
「いや、住むのに許可とかは要らないんだ。ただ住む人が増えたって報告するだけでいいんだ」
「随分と適当ね……」
「元々世捨て人の集まりで出来た村だからな、村長もそう呼ばれているだけで、なにか決める時は全員で話し合うから、村長に絶対的な権力があるとかではないんだよ」
「そうなのね。一応聞いておくけど、魔族はどう扱うの?」
「どうもしないさ、この村に対して不利益をもたらさなかったら誰でも受け入れるよ」
そんな話をしているうちに、村長の家に着いた。
大きさは俺の小屋と同じくらい。
俺が今まで旅の途中で見てきた、どの村長の家よりも小さい。
それについては理由がある。
この村の家の大きさは、請け負っている役割や家族の人数で変わってくるからだ。
俺のように独り身なら小屋の大きさは小さい。
ココアたちのように三人家族で鍛治もやっているとなると、三人用の家+鍛冶場といった感じになるので、それなりに大きくなる。
それは村長と言えど例外はない。
そんな理由で、俺と同じ独り身の村長は小さい小屋に住んでいるというわけだ。
「村長ー」
扉を叩きながら、村長を呼び出す。
「はいはい、どちら様かしら〜」
出てきたのは――。
体のラインに沿ったぴっちりとした、フード付きのローブを身につけた全身真っ黒な若い女性。
フードから見える顔も黒く表情すら読めない。
村の住人からは、人ではない種族だと言われているが、本人はその辺について語る気はなさそうなので、詳細はわからないままだ。
この村の決まりで「人の過去を詮索しない」というものがあるので、誰も気にしないし、そういう人だとしか思われていない。
実際俺もあまり気にしていない。
初対面の時は面食らったが、今では慣れたものだ。
この村の創設当時から村長という事実も相まって、ヤバい人物だということがわかる。
この村ができたのは50年以上も前のことだ。
その当時から見た目も変わらず村長を続けているのだから、長寿な種族ということがわかる。
「こんにちは村長。今日は報告があってきました」
「あらそうなの〜、その子が新しい住人ね〜。住む家も貴方の家でいいのね〜。
後で追加のベッドを発注するのよ〜」
相変わらずこの村での出来事はなんでも知っているな。
ルナのことを知っているのは今のところ、ココアとロイとリネッタだけだ。
「相変わらず耳が早いですね」
「この村の出来事はなんでも知ってるわよ〜。それで……お名前は?」
村長がルナに向き直ると、ルナは体をビクつかせながら答えた。
「ル、ル、ルナ・シルヴァ……です」
「ルルルナちゃんね〜、覚えとくわ〜」
「ルナですよ。緊張して噛んだだけです」
「あらあら〜。では改めまして、私がこの村の村長を押し付けられている村長よ〜。よろしくね〜」
「よ、よろしくお願いします!」
ルナは緊張した面持ちで、頭を足につける勢いで下げた。
……よし、これで挨拶は済んだ。
「それじゃ村長。俺たちはもう行きますね」
「ええ。あっそうだ〜、後で枝豆を貰いたいのだけど用意して置いてもらえるかしら〜?」
「枝豆ですね、わかりました。ついでに他の食べ頃のも用意しときますね」
「楽しみだわ〜」
俺たちは村長に軽く頭を下げて、その場を離れた。
◇
家に向かう道の途中で、村長の家を出てからずっと無言だったルナが口を開いた。
「ねえ……あの女はなによ」
ルナもココアみたいなことを言い出した……。
「どの女だよ」
「村長とかいうやつよ……あれは、なに?」
「なんだと聞かれてもな……この村ができた当初から村長をしている人、としか知らないな」
「人じゃないわよ、アレ……だって魔王様と同じくらいの魔力を有しているのよ……いや、それ以上かもしれないわね」
魔王……ということはプニ雄と同じってことか?
プニ雄って魔力あるの?
「鼻ちょうちんを出しながら寝てるプニ雄と、同じなわけないだろ」
「違うわよ。今のお姿ではなく、勇者に敗れる前の魔王様と同等かそれ以上だと言っているのよ」
へー、そりゃすごい。
あの村長なら、もしかしたら有り得るかもしれない。
本人の口から何も語られないので、本当のところはわからないけど。
そんな話をしていると、家の前に誰かが居るのが見えた。