二人目の同居人
「一緒に住む? なんでだ?」
「ここ以外に住むところなんてあるの?」
「あるよ」
普通にある。
まあ、あるといっても小屋を建てないといけないけど。
それまではうちに住まわせてもいいが……ずっとというのは、ねえ。
俺も男なんだし、何かあってからでは遅い。
だがルナはこう言った。
「魔王様の傍を離れる気はないわ」
お互いプニ雄をチラリと見る。
自分の皿に残ったソースをペロペロ舐めて綺麗にしている。
魔王がこんなことするだろうか……。
誤解の可能性も高いが、今は目先の問題から解決しよう。
「まあ……一緒に住むのは構わないが――」
「え? 一緒には住まないわよ?」
おやー? そういう意味じゃなかったのか?
「ここに住むって言ったじゃないか」
「ええ、この家に住むからアナタは出て行ってね」
おっと、想定外の答えだ。
どうやらこの女の言う「一緒に住む」とは、“プニ雄と“一緒に住むことで、そこに俺は含まれていないようだ。
女のとんでもない発言に、俺は頭を抱えた。
「出て行ってとは言ったけれど、助けて貰った恩は必ず返すから安心して」
「いや、俺の家なんだから出てくわけないだろ」
「な、なんで?!」
こっちのセリフだよ、イカれてんのかこの女。
少なくとも与えた恩を仇で返す人間――魔族に優しくする気はない。
「魔王軍が再興した暁には、アナタのことはちゃんと保護するし、良い待遇で迎え入れてあげ――痛い!」
そんな女の言葉を遮るように、女を叩いた。
プニ雄が。
プルプルボディから鞭のように伸ばした腕を振り回し、女をシバキ倒す。
「痛い痛い痛い! ま、魔王様おやめ下さい!」
どうやらプニ雄も女の要求が理不尽だと理解してくれたようだ。賢い子だ。
ペチンペチンと小気味いい音が部屋に響き渡る。
◇
「申し訳ありませんでした……どうかこの家に置いてください……」
プニ雄にシバキ倒された女は、土下座しながらそう言った。
まあ……ムカつきはしたが、プニ雄が代わりに怒ってくれたのでチャラにしてやろう。
実際に家を乗っ取られたとか、そういう被害を受けたわけではないんだし。
「わかった許すよ。ただし、この村の決まりは必ず守ってくれ」
俺の言葉にルナは腫れ上がった顔をパアッと明るくした。
思った以上にボコボコにされてるな……。
タンスから回復薬を取り出し、ルナに差し出す。
「回復薬だ、使っていいぞ」
「自分で治せるからいらないわ」
するとルナが指先に魔法陣を描くと、見る見るうちに顔の腫れが引いていった。
驚いた……回復魔法まで使えるのか。
魔王を崇拝しているのに、神を信じているのか。
この世界の回復魔法は教会に所属している者か、信心深い者だけが使える。
要は、神を心の底から崇拝する者にのみ与えられる奇跡の魔法なのだ。
「もしかして、元教会関係者だったのか?」
「なんで私があんな所に所属するのよ」
「え、だって回復魔法使ったし」
「……ああ、これって別に崇拝するものは人間の神じゃなくてもいいのよ。私は魔王様を崇拝しているから使えるの」
「そんな仕組みだったのか……」
知らなかった……俺がこの世界に来て聞いた話とは全然違うな。
ということは俺も誰かを崇拝すると使えるようになるのかな?
頭の中に転生した際に出会った人物が浮かぶ。
感謝はしてるが、あいつのミスで死んだからな……。
「ところで」
ルナはそう言うとモジモジし始めた。
「なんだ?」
「その……下着は新しいのないの?」
「すまん、そこまで頭が回らなかった」
明日またロイの所に行こう。
そのついでにルナも皆に紹介して回るかな。