プニ雄! ハイドロポンプだ!
女はいきなりプニ雄を掴むと、魔王様と呼んだ。
プニ雄が魔王? こんなにプルプルした子が?
女はプニ雄に頬擦りをし始めた。
このまま放っておくのはプニ雄に悪そうだ。
「あのー、そろそろプニ雄を離してくれない?」
「――プニ雄?」
女はピタリと動きを止め、ゆっくりと俺の方を向いた。
「貴様……魔王様をプニ雄などという、ふざけた名前で呼んだわね?」
ふざけてるも何も、プニ雄本人が受け入れてくれているしなぁ。
「名付けたのは俺だが、本人も気に入ってるみたいだし……」
「我ら魔族の長たる魔王様に向かって何たる無礼! 貴様はここで消し炭にしてあげるわ!!」
女はプニ雄を小脇に抱え、片手を上に掲げると、火球を作り出した。
まずい――!!
俺の能力と炎とでは相性が悪すぎる……!
「死ね! フレイ――あばばばばばばば!」
小脇に抱えられたプニ雄から、女に向けて凄い勢いで水が発射された。
そのまま女はプニ雄を手放し、水圧によって吹き飛ばされ、木に直撃するとそのまま倒れた。
どうやら気絶したようだ。
プニ雄は俺の傍にポヨンポヨンと近付き、胸?を張って「どんなもんだ」と主張した。
「さすがだな、助かったよ」
プニ雄の頭を撫でると、プルンとした肌は、水を出したからか、少し冷たくなっていた。
◇
「――ん……っ! こ、この縄を解きなさい!」
「ん? 起きたか」
あれから、気を失っていた女を家に運び込み、縄で縛って椅子に固定し、動きを封じた。
魔族は身体能力が人間よりも高いため、縛ったところで直ぐに縄を引きちぎられる可能性がある。
だが俺の能力で作った縄と、この村産の椅子はそんなやわでは無い。
今も女が力を入れているが、ビクともしない。
「畑に被害が出ると困るんでね。アンタが大人しく話し合いに応じるなら縄を解くが……どうする?」
俺の言葉を聞いた女は、疑いの眼差しを向けた。
疑われているな。
本当に畑に被害を出したくないだけなんだが……そう言っても簡単には信じてもらえないか。
とりあえず落ち着くまで、飯でも食って待つとしよう。
「どうするかはアンタに任せるから、そこで少し考えてるといい。プニ雄飯にするぞー」
プニ雄はテーブルに乗ると、自身の食器を準備した。
少し前までは丸かじりスタイルだったが、今ではナイフとフォークを使いこなすまでに成長した。
お昼はシチューだ。
試行錯誤の末ようやく完成した一品でもある。
鍋の蓋を開けると、部屋中にいい匂いが漂い出す。
女が生唾を飲む音が聞こえた。
プニ雄と共に食べ進めると――。
ぐぅ……という音が聞こえた。
音のした方を見ると、女が顔を赤らめながら俯いていた。
……仕方ないか。
テーブルにもう一つ皿を出し、女の縄を解いた。
「食事中は停戦ってことで。お替りが欲しかったら言ってくれ」
女はポカンとした表情をし、スプーンを手に取り一口食べた。
そこからは凄い勢いで食べ始め、直ぐに皿が空になる。
「腹、減ってたんだな……もっと食べるか?」
女は無言で頷いた。
そうかそうか、まあ美味そうに食べてくれるのは、こっちとしても嬉しいからな。
「パンにつけて食べると美味いぞ。ほらサラダも食べな。デザートもあるからな?」
出された物はなんでも食べてくるので、俺も調子に乗って色々と出してしまった。
女の手が止まり、テーブルに涙が滴り落ちる。
おっと……調子に乗って出し過ぎたか?
女は静かに口を開いた。
「美味しい……グズ……こんなまともな料理……一年ぶり……うぅぅ」
……そうか。
「まだまだあるから。遠慮せずいっぱい食べてくれ」
女は無言で頷いた。
プニ雄も皿を持ち上げ、空っぽであることを示した。
「はいはい、お前もお替りね」
結局、夕食の分にと多めに作っていた鍋の中身は空になってしまった。
書き溜め分尽きたので、メインで書いている「草原スタート」と並行して書いていきます。
作者の執筆速度を鍛えるために交互に書いて投稿するので、今後は早くて毎日、遅くて隔日という感じになります。