プロローグ
◇
ここはとある村のはずれ。
そこには寂れた一軒の小屋が建っていた。
「うーん、今日もいい天気だ。絶好の畑仕事日和だな!」
そう言って小屋から一人の男が出てくると、立てかけていたクワを手に取り、歩き出す。
そのうしろに二人の女が後に続く。
「まったく、忌々しい日差しね。私の肌が日焼けしてしまうわ」
照りつける太陽を睨みつけるその女は、頭に角が生えており、人間ではないと一目でわかる容姿だった。
銀色の腰まで伸びる長髪は陽光を浴びてキラキラと輝き、その顔は、見る者すべてが足を止めるほどに――美しかった。
「いちいち足を止めないでください、邪魔ですよ」
そんな女を小突くようにして小屋から出てきたのは、これまた美しい女だった。
肩まで伸びる艶やかな黒髪を持ち、それを引き立てるように、黄金に輝く瞳には不思議な模様が刻まれていた。
「はいはい。今日は収穫の日なんだからサッサと始めましょ」
「あなたはいつもサボってばかりじゃないですか」
「なんですってぇ?!」
「やんのかコラ」
二人の女が顔を歪め、睨み合っていると――。
「おーい、何してるんだー早く来いよー」
「今行くわよ! うぎっ」
「今行きまーす! ぐっ」
お互いの拳を同時に叩き込み合うと、男の元へと駆け出していった。
そんな三人のあとを追う黒い影。
正確には黒い“ナニカ”。
サッカーボールほどの大きさの“ソレ”は、黒い不定形の身体をしており、中央には大きな目玉がひとつあった。
スライムのようにポヨンポヨンと飛び跳ねながら、三人のいる畑へと向かっていった。
これは――異世界に迷い込んだ、とある男の物語である。
人と魔。
どちらの勢力でもないこの村には、今後どのような騒動が待ち受けるのか――。
その先に待ち受ける困難を――男はまだ知らない。
ただはっきりと、わかることがひとつだけある。
この物語が彼らにとって、より良い結末となることを、ここに記しておこう。
それでは次回、本編スタートです。