【無限列車ラプソディ】〜マスクをください〜
2020年公開の劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」のレビューの様なモノです…(。-_-。)
「集団の中で感じる孤独及び作品を通じて得た一体感及び価値観ってホント人それぞれですよねー的なアレコレ」
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【立志編】
良い事なのか。悪い事なのか。分からない。
でも。多くの人間がそうである様に、彼もまた「鬼滅の刃」のファンであった。
初めからそうだった訳ではない。原作は読んでいなかったしアニメも見ていなかった。社会現象を巻き起こしていると聞いても、それほど興味を持てなかった。
「なんぼのもんやねんフッ。」とタカを括っていたのである。
だが、知人にゴリ押しされて嫌々ながら配信版を観る事になり結果、5話辺りでなんたる事か、あっさりすっかりハマってしまっていたのである。
それはもうリアルに全集中の呼吸を練習する程のハマり様。
典型的なにわかファンの出来上がりであったのだがそこへ被せる様にしてくだんの知人から衝撃の言葉が。
「今度公開される劇場版て『本編』らしいで。」
それはつまり彼が今見ているアニメの続きだという事。
それはつまりこの劇場版を見ておかないと話が繋がらないという事。
「ウソだろ…。」
彼は絶句した。
折しもその頃は世界中がコロナ禍真っ只中で「三密」「まん防」「マスク警察」などなどおよそ真っ当な人間が考えたとは思えない新語が飛び交い、世はまさにパンデミックならぬヒステリックな社会情勢だったのだ。
当然映画館も神経質なまでの対応が求められており、座席は必ず両隣一つ開けて座らなければいけなかった。
そんなご時世に、テレビの続きを映画館でやるだと?
「ウソだろ…。」
彼は我知らず同じ言葉を繰り返し呟いていた。
愕然としながらも1ヶ月かけて第1シーズンを見終わりハタとカレンダーを見ると2020年10月16日金曜日。奇しくも劇場版の公開日。
つい先月まで小馬鹿にしていた自分がまるで別人かと思えるほど、フツーに明日観に行く気になっている事に思わず我が意を疑う彼。
そして。
多くの人間がそうである様に彼もまた、映画館へ足を運んだのである…。
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【劇場編】
「ウソだろ…。」
劇場で彼は、恐怖のあまり、我知らず独り言を呟いていた。
公開2日目。話題のヒット作。多いと思ってはいたがまさかこれほどまでとは。
満席なのだ。
700席以上を誇る梅田tohoシネマズの座席がギッチギチに人で埋まっているのだ。
まん防緩和に伴う制限解除の為、一つ飛ばしでの座席確保がなくなり、目一杯座れる様になった映画館。それがこんなにも圧迫感を伴うとは。
彼は心底震え上がっていた。
不用不急の外出を差し控え「ヒトゴミ?何それ食べた事ないw」的な感覚に慣れてしまった彼にとってこの状況は、上弦の鬼を前にした癸の隊士くらい絶望的な状況と同義であったのだ。
しかもそういう時に限っていっつもくっ付いてくる連れがいない。アニメに全く興味がないのだ。
「映画終わったら連絡して。」
いやいやこんな地獄味溢れる状況で、果たして俺はたった1人で無事に最後まで鑑賞し、連絡するというエクストリームなミッションを達成できるのだろうか。
映画とは全く無関係な心配を抱いたまま緞帳が上がった…。
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【鑑賞編】
「ウソだろ…。」
映画の中盤、炭治郎の心象風景のあまりの美しさに彼は我知らず独り言を呟いていた。
澄み切った青。
空と地面の境界線が判らなくなる程の青さ。
これがいわゆるインフィニティブルーというヤツか。
彼は完全にこの物語に取り込まれていた。感染症もヘッタクレもない。人目を憚らず、嗚咽をあげて泣いていたのだ。中盤で。
「クリード2」の時でさえ、クライマックスでギリ声を押し殺して涙したものだが今回は違う。
ダムが決壊するが如く、何ならちょっと反動で頭が後ろに下がるくらい涙が溢れ出したのだ。中盤で。
いい歳こいたおっさんが。
1人で。
マスクをビショビショに。
いや。ビッショビショに濡らして滂沱の涙を流しているという。
その姿はもはや事案対象にされても致し方ない様相であるという。
そんな状態になったのだ中盤で。
まぁ幸いな事に周りの観客も似たり寄ったりの反応を示していた為、さして目立つこともなく、いやむしろ彼の感情の底上げに拍車をかける形になっていた。
「俺は1人じゃあない!」と。
「この感情は今まさにみんなも味わっているものなんだ!」と。
1人の平凡なおっさんを、恥も外聞もなく開き直らせて泣かせるほどのアレを、周りの観客も共有している様に感じたのだ。
ともかく泣かせにくるんだこの作品は!
割と早い段階で涙腺が緩み始めていた彼だったが、年齢的なアレを考慮してグッと堪えていたのに糠に釘。豆腐にかすがい。全くもって無駄な抵抗。
追い込まれた状況の人間に対してこの作品は容赦なく被せてくるのだ!
決着したと思わせてもうひと展開!からのまたしても泣かせる展開!
なにもう!やだもう!勘弁してくれ!
ラスト、炭治郎の事を、仲間どころかほぼ敵として認識していた煉獄さんが、最期の瞬間、認め、受け入れ、後を託す。
熱すぎるだろうが!
終盤になるともう彼はまるで幼な子の様にただただ泣きじゃくるしかできないでいた。
「俺はまだこんなにも泣く事が出来たのか…。」
小馬鹿にしていた俺こそが馬鹿だった。この歳になってもまだ、こんなにも素晴らしい作品に巡り会えるだなんて。
もう泣きすぎてマスクどころか顔面がビッショビショになっていたが最後まで彼は一切拭う事なく、その動作すら惜しいと思えるほどに没入して見切った。
物語が終わり、湧き上がる感謝の念に身を委ね、心地よい倦怠感を感じつつエンドロールを眺めながら、ようやく我に帰った彼は「替えのマスク持ってくりゃ良かった」と、新型ウィルス感染の恐れなんかよりも、帰り道で確実に奇異の目で見られるであろう、涙と鼻水でグシャグシャになった顔面のコンディションを、その時になって初めて心配し始めていた…。
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【トイレ編】
「ウソだろ…。」
確実に目が腫れぼったくなっていると思い、これから人と会うのにカッコ悪いじゃあないかと、具合を確認する為トイレに入った彼は驚きのあまり独り言を呟いていた。
上映終了直後という事もありトイレは長蛇の列になっていたのだが、彼が驚いたのは人の多さにではなかった。その列に煉獄さんの姿を認めたからであった。
正確には、煉獄さんが羽織っていたマントと同じ柄の、タオル地のマントを羽織った少年の姿を認めたからであった。
恐らく同じ回を視聴していたのであろうその少年の後ろ姿を見て彼は動揺を隠せなかった。
今しがた、彼の胸を激らせ、泣かせた、あの、煉獄さんが、トイレ待ちの列の中に立っているっ!
「煉獄さぁぁぁん!!!」
泣いた!彼はまた泣いた!目が腫れぼったいとかもうどうでも良くなった!
もう行こう。このまま連れに会おう。確実に笑われるがもう構わない。取り繕いだなんてそんな小賢しい事で今俺が受け取った感動を上書きしたくない!
世界的な非常事態の中で!
ソーシャルディスタンスとかステイホームとかいう横文字が飛び交う中で!
「家でプレステしとけっ!」とか言われてる中で!
こんなにも多くの人たちと、こんなにも同じ場所で、こんなにも心が一つになる経験をした事があったろうかいやない!!!
俺はこの感動を連れに伝える!それが俺に託された使命だっ!!!
意を決して彼は颯爽と映画館を後にした。
30分後。赤い目の、マスクをグシャグシャに濡らした挙動不審の人物が、ウメキタ界隈に出没!という案件がSNSに一瞬浮上するのだが…。
それはまた別の話。
おわり。
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【特典編】
無限列車編の入場特典として、書き下ろしコミックが一冊もらえた。
煉獄さんの初任務が描かれており、読み応えバツグン。その他、塗り絵やここだけの大正コソコソ噂話など、結構なボリュームの一冊。
加えて特に感銘を受けたのが監督の制作裏話。
アニメ版第一話の雪山のシーン。アレ、なんと実際に真冬の雪山に登りロケを敢行したというではないか。
何という力の入れよう!この話だけでも値打ちがある一冊!スゴい!ファンになって良かった!この本がもらえて良かった!彼は心底感動した。
この感動を分かち合いたいと、全集中で連れに読み聞かせていたのだが、スマホから一切目を離さない連れから衝撃の言葉が。
「その本メルカリで300円で出品されてるで。」
はい皆様ご一緒に。
「ウソだろ…。」
ホントにおわり。
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【あれから4年後編】
TVアニメは遂に佳境を迎え、炭治郎達が宿敵鬼舞辻無惨と直接対決!という所で今シーズンが終了する2024年だったのだが、来シーズンの予告「無限城編」のテロップを見て胸を震わせていた彼に、またしても衝撃の事実が降りかかった。
「劇場版」?!
しかも「3部作」!!!
はい皆様ご一緒に。
「ウソだろ…。」
ホンっっっトにおわり。




