第16話 ラストセクション
ついに最終局面を迎えた、鬼ヶ島とMOMO太郎の一騎打ち。
MOMO太郎は徐々に距離を詰めていますが、それでも車体三台分程離されています。
コースも残り僅か――。MOMO太郎は、死に物狂いで攻めるしかありません。
撃墜されずに生き残っていた、鬼ヶ島最後の車両。追い抜くためには、技術、精神力、そして“プラスアルファの何か”が求められます。
お巡りさんは、猛然と走る二台をやっとの思いで追走していました。
ふと、手元の無線機から連絡が入りました。どうやら、この山道の最終コーナーを抜けた先、つまり終着点にて検問を配置したとのことでした。
ですが、あり得ない速度で走っている鬼ヶ島。このままいけば危険運転の行き着く先、大事故に繋がることは想像に難くありません。
なんとしても速度を落とさせなければなりません。
お巡りさんは、指を咥えて見ていることしかできません。
MOMO太郎は、ひたすらに追い続けます。道路は勿論、先行車両の走りの癖を見抜くよう、鋭い眼差しをしています。
すると、何か様子がおかしいことがわかりました。
ブレーキの時間が異様に長いのです。
加えて、車幅を端から端まで目一杯つかってコーナリングをしている割には、動きにキレがなく、狙ったラインを走っているというより、そう走らざるを得ないといった様子だったのです。
「まさか……。これはマズイな」
MOMO太郎はある一つの可能性に気づきました。
鬼ヶ島の車体は重量があり、なおかつハイパワー。先ほどからの下り勾配で長く、そして強烈なブレーキングを行ったことで、ブレーキに異常が発生したのではないか――ということでした。
鬼ヶ島のドライバーは、冷や汗をかきながら目一杯走って――否、クラッシュを避けるために耐えています。
MOMO太郎の推測通り、鬼ヶ島の車体はフェード現象が起こっていたのです。
そんな状態で速度の乗ってしまう下りを攻めていては、いずれ突き刺さってしまいます。
そのライン取りは非常に危なっかしいもので、ついに壁に接触をしてしまうほどでした。
姿勢こそ崩さないものの、壁面を強く擦ったことで火花は散り、ミラーも吹き飛んでしまいました。
その際の失速により、MOMO太郎との差は一気に詰まります。
鬼ヶ島の光ったままのブレーキランプを確認したMOMO太郎は、そのまま追い抜きました。
ついに先頭にやってきたのです。
とはいえ、これは遊びやゲームではありません。追い抜いただけではなんの意味もありません。
追い抜いた直後、鬼ヶ島をブロックし、この先の信号で食い止めるつもりだったMOMO太郎ですが、相手の車体の様子を見る限り、自発的に止まる事は不可能な様子です。
しかし、MOMO太郎は躊躇なくブレーキを踏みました。
鬼ヶ島の車体は、それを避けようとブレーキを踏みながらハンドルを切りますが、車速は全く下がりません。
グランドのリアバンパーに、鬼ヶ島の車体がぶつかりました。
あまりの衝撃に、MOMO太郎の体は強く揺さぶられましたが、ガッチガチに固めたボディはその衝撃を耐えました。
それを確認したMOMO太郎は、より強くブレーキを踏み込みました。タイヤのグリップを限界まで引き出す、絶妙の力加減です。
ここまで来ては、鬼ヶ島も抵抗の様子を見せません。ただひたすら、止まるために車体を壁に擦りながら下っていきます。
しかし、徹底的に軽量化を施したグランドの車体では、重い鬼ヶ島の車体を止める事は叶いません。速度が落ちないまま、山道を下り続けます。
万事休すか――MOMO太郎と鬼ヶ島がそう思った時、真横から一台の車両が飛び込んできました。
白と黒のツートンカラー、お巡りさんのクラウンパトカーです。
「MOMO太郎一人に、そこまでやらせるわけにはいかないな――!」
「ちょ、何をするつもりですか?」
「感激したぜ、手伝わせてくれ!」
「な、えッ!嘘でしょ――!?」
お巡りさんは鬼ヶ島の車体右側で並走し、なんと車体をそのまま密着させ、壁に押し当てました。
鬼ヶ島の車体は、猛烈な火花を放ちながら速度を落としていきます。
しかし、誰か一人が少しでもハンドル操作を誤れば、3台まとめてクラッシュするというとても危険な状況です。
やれる事は全てやりました。あとは天に祈るのみです。