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第11話 激戦の幕開け

 レーシングドライバーさながらのスタートダッシュを公道でやってのけたMOMO太郎は、車通りの極端に少ない道を爆速で駆け抜けます。

 周りの景色が目まぐるしく変化する様は、自身の車速が如何に異常であるかを教えているようです。

 環状線などの似通った景色では到底味わえない次元でした。

 幸運なことに、最初の信号以外はほとんど全て青だった為、MOMO太郎は全開で飛ばす事ができました。

 そして、鬼ヶ島を視界にとらえました。

 彼らもそれなりに飛ばしていた筈ですが、環状族とのもつれ合いでも起こっていたのか、それはわかりませんが、それほど距離は離されていなかったようです。

 もう間も無く集団に入れるかという距離まで来た時、先頭の車両が山の入り口へと向かい、そのまま吸い込まれるように山の中へと消えていきました。


     ◆◆◆


 鬼ヶ島一行は、街灯の無い真っ暗な山道を、一直線に並んで走っています。

 先頭の車両が、第一ヘアピンコーナーへと差し掛かると、ブレーキ、サイド、アクセル、クラッチ……。手慣れた動きでそれを駆使し、ドリフト走行で駆け上がっていきました。

 後ろに続く車も、同じようにしてコーナーをクリアしていきます。

 真っ暗だった筈の閑散とした峠に突如として現れた白煙、そしてそれに埋もれるように消えていく鬼ヶ島連中のテールランプ……。

 後続の環状族、そしてお巡りさんは、その暴れ具合に対して空いた口が塞がらなくなりました。

 仲間を痛めつけられた仕打ちとして追いかけてきた筈の環状族ですが、真っ暗な夜道で、絶滅寸前とも言える走り屋宛らの走りをするこの連中を追うことへの馬鹿らしさ、危なっかしさ……。そして何より、隣にいるお巡りさんのプレッシャーなども重なり、次第次第に、ほとんど無意識にアクセルを抜いてしまい、ついには気が抜けたように法定速度で走るまでに落ち着いてしまいました。

 一方お巡りさんは、義務による追跡というより、公安のプライド――否、正義感、意地によって追跡を続けている以上、決して臆することはありません。

 しかしそれは、あくまで平地、市街地でのこと。

 山へと場を移された上、ケツを振り回しながら走る無法者に対し、変わらぬ気持ちで追跡をすることがいかに危険か、お巡りさんが知らない筈もありませんでした。

「これ以上、追い続けるんですか?」

 パトカーの助手席に座っていたもう一人のお巡りさんが、不意に言葉を漏らしました。

 その一言は、ハンドルを握るお巡りさんの胸の奥底にある、煌々と輝いていた正義感を翳らせ、いよいよ諦めなければならないのか――といった気持ちにさせるには十分なものでした。

 目の前の鬼ヶ島連中を、ほんの僅かに残った執念の宿る目で睨みつけたその時です。

 ふと、バックミラーに一つの光が映り込んできました。

「なんでしょう、アレ。あんなの追い越しました?」

「――いや、抜いていないな」

 鬼ヶ島連中を含め、お巡りさん、環状族が第一ヘアピンをクリアしたのは、ほんの数秒前。それまでの間、すべての車両はアクセル全開で走っていた上、ただの一台も、一般車両を抜いていないのです。

「じゃあ、他のパトカーですか」

「あれは――キセノン系のヘッドライトだな。ならパトカーではない」

「って事は、まさか――ッ」

 つまりこの背後から迫ってきた光の主は、彼らよりも一段と速く、ここへ駆けてきたことに他ならないのです。

 お巡りさんの口角は、不覚にも持ち上がり、冷や汗を頬に垂らしながら、ニッと笑いました。

「きたきた、きたァ――ッ!白い幻影――!」

「オイオイ、律儀に信号守ってたんじゃねえのか!」

 やってきたのは他でもありません、MOMO太郎でした。

「さあ見せてくれ!白い幻影と呼ばれた――本当の走りを――ッ!」


     ◆◆◆


 鬼ヶ島連中には勝算がありました。それは、環状族の車が基本的にNAのFF車であり、尚且つ、ホームコースが環状線だけである事でした。

 つまり、勾配が続く坂道に加え、ヘアピンやタイトな連続コーナーは、環状族にとって不慣れであり、さらに道幅の狭さからくる閉塞感に耐えきれず、自ずと退いていくだろうという心積りだったのです。

 実際、環状族は鬼ヶ島の走りに対し、自らアクセルを抜いて離脱しています。以前としてお巡りさんも追跡してきていますが、その距離は確実に離れています。

 これで奴らとも離れられる、面倒な連中に現実を突きつけてやったぞ――などと思ったその刹那、彼らの耳に、どこか聞き覚えのある快音が、自車の爆音に混ざって耳へと入ってきました。

 まさかと思い、バックミラーに目をやると、そこには一つの光――あのプラチナホワイトパールのグランドが写っていたのです。

 驚愕を隠せない鬼ヶ島連中でしたが、この場においての優位性は揺るがないと確信している今、操舵が乱れることはありませんでした。

 落ち着き払った様子で、第二ヘアピンへと突っ込んでいきます。

 鬼ヶ島連中は、先ほどと似た手順で、車体のケツを流しながら、道幅いっぱいに広がってドリフト走行をしています。これにより、どんな車が来ようとも抜く事ができない状況を作り出していたのです。

 そして、第二ヘアピンを立ち上がった頃、MOMO太郎はようやくそのコーナーへ侵入しました。

 確実に追い上げてはいますが、ドリフト走行をする車体を抜き去るのは至難の業です。

 その様子をさらなる背後からお巡りさんがじっと見つめていました。

 心の奥底から湧き出てくる、期待を込めた眼差しで。

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