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第10話 スタートライン

 鬼ヶ島連中は、赤信号を無視して交差点へと突っ込みました。

 如何に平日の深夜といえども、交通が無くなる訳ではありません。

 突然飛び出してきた鬼ヶ島の車に対し、急ブレーキを踏むタクシー、クラクションを鳴らす乗用車、トラック。そして、スマートフォンを取り出して撮影をする通行人……。静かだった街に異物が紛れ込んだ瞬間でした。

「兄ちゃん!止まっとんちゃうぞ!早よ追わんかいボケ!」

 呆気に取られる間もなく、次の騒ぎが起きました。

 隣を見ると、環状族のグランドが窓を開けてこちらに向かって吠えているのが分かりました。

「赤やからなんや!あいつら山行くつもりやぞ、早よ追うぞ!」

「え、え?」

 赤信号は止まるべき物だと認識していたMOMO太郎にとって、信号無視などとてもできる物ではありませんでした。

 これだけ違法改造を積み重ねているグランドに乗っているMOMO太郎ですが、速度違反以外の道交法はしっかりと守っていたのです。

 そんなMOMO太郎に見切りをつけたのか、環状族は鬼ヶ島連中と同じように信号を無視し、「ンバァアアア!」と爆音を撒き散らしながら、街の闇へと飛んでいきました。

 通行人は突然の爆音に驚いたようで、耳を塞ぎ、空いた口が塞がらない様子です。

 どうしたらいいのか最早わからなくなってしまったMOMO太郎は、振り返ってお巡りさんに目を向けますが、どうした事でしょう。既に赤色灯を回しながら交差点へと侵入しているではありませんか。

 よく見ると、無線機を使って何か叫んでいるようにも見えます。故に、こちらへの目配せなども一切ありませんでした。

「……いやいやいや、僕は間違っていない。赤信号は止まるものだ」

 赤信号での発進はフライングである、とお爺さんから聞いていたMOMO太郎は、待つ事を強いられていました。いくら走ろうと足掻いても、本能がそれを許さないのです。

 その間、数少ない通行人は物珍しい顔で、MOMO太郎のグランドを撮影したりしていました。

 何も出来ないままですが、刻一刻と彼らはぐんぐん山へと向かっているはずです。

 そのもどかしさが積み重なり、次第に落ち着きをなくし、ステアを指でトントンと叩いています。

『MOMO太郎、走りに肝心な物の一つは、感情のコントロールだ』

 ふと、お爺さんの言葉が蘇ります。昔から教えられてきたものでした。

 それを思い出すと同時に、カートの大会に出た時の事が、鮮明に思い返され、今の状況と同期し始めました。

 目の前の信号はスタート合図、交通人は観客、高鳴る動悸、ステアを握る汗ばんだ手、全てが同じように思え、綺麗に重なったのです。

 ローンチコントロールなんてものは存在しない車体ですが、そこはMOMO太郎。クラッチを切ったままアクセルを踏み、回転数を上げます。

 タコメーターが一定まで上がった後、綺麗に静止しました。

 そして、信号機のことを睨みつけます。ギアは1速、クラッチを踏む左足にも意識を向けます。

 意外な事に、MOMO太郎はとても落ち着き払っていました。先ほどまでの動悸も平静を取り戻しています。

 やがて、左右の信号が赤に切り替わりました。

 MOMO太郎の目が道の先を見据えた時、MOMO太郎の顔が青に照らされました。

 ホイールスピンをさせない絶妙なアクセル、クラッチコントロールにより、グランドは猛烈な勢いで加速します。いつの間にか止まっていた隣の車は、突然のことに驚いたのか、発進ができずにいました。

 信号が切り替わってから発進までにかかった時間は、僅か0.2秒。まさに神速です。

 MOMO太郎のグランドは、鬼ヶ島、環状族のそれとは比にならない勢いと爆音で、闇の中へと消えていきました。

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