第五話
黒く、高貴な翼を生やしている。
ベルは、その深く、やわらかい声でゼイを阻んだ。
「君、矛を抑え給えよ」
ゼイは空に飛び上がっている。
速度は、落とせない。
「仕方あるまい」
ベルはそう呟くと、赤いネクタイを首から外し、裂いた。
ネクタイの内側から純白の毛が大量に飛び出し、互いに絡み合った。
それは膨らみ、ゼイを包み、ベルを包み、瓦礫を、パイフを包んだ。
ゼイは落下しながら前進し、煙に包まれて止まった。
ベルは嗤い、呟く。
「思ったよりも、楽に終わりましたね」
ベルはゼイを抱え、毛の中に消えた。
ー♢ー♢ー♢ー
「おいベル!俺が燻製になっちまう前にこれを消せ!」
パイフが叫ぶが、返答はない。
「おいベル!」
ピアは毛を掴み、指先でこねた。
「意味ないわよ。これ多分、羊毛ね」
「羊毛?」
「断熱、そして防音。叫んでも意味ないわよ。」
パイフは拳銃を取り出し、口から弾丸を吐き出した。
「やめて!辺りが焦げ臭くなるだけよ」
「チッ」
シャンセンは静かに彼らを見守り、目をつぶったまま、額に手を当てていた。
ー♢ー♢ー♢ー
(アン、起きてくれ、)
声が響く。
ガラス越しに問いかけられているように、ぼやけた声が。
(そろそろ完成だ、喜んでくれよ、、アン、、)
「ぅあっ!」
ゼイがまぶたを開けると、暗闇と、その中に光る多色のホタルを見つけた。
それらは周囲の暗闇を燃やすかのように輝いている。
「ここは、、」
「おはよう、ゼイ君」
頭上から、声が聞こえた。
優しいけれど、耳の奥にザラリとした感触を残す声。
ゼイは、声の主を、かすかな記憶を辿ってひねり出した。
「ん、、あぁ、ヘイ・ドライブみたいな?」
「全く違う、ベル・ドライトだ、私をナンパ男などと一緒にしないでくれ」
ベルは立ち上がり、腰のポケットから小さな携帯機を取り出し、操作した。
すると、周囲が明るく光り、ゼイは思わず目を閉じた。
目を手で覆おうとするも、分厚い鎖で手首を地面に繋がれており、手は動かない。
「君をここにつれてきた理由は、話すと長くなる」
ゼイはわざわざ長話を聴く気分ではなかったが、身動き取れず、鎖を強く鳴らしながら、耳に入れていた。
「私は、私の家系に伝わる遺伝子について研究を重ねた。ドライトの歴代つなげる能力は、カプセルの摂取量を増やしても、濃度レベルを上げても、ある一定の血中濃度に達するまで何の効果もなかった。」
ベルは拳を握りしめ、目を強くつぶった。
そして、ゼイの方を向き、大声で話しだす。
「そんなわけない!私は叫んだ。研究し、研究し、ついに見つけたのだ!我々の能力は確実に変化していたのだ。古代文献に参考があるとは思わなかった。」
ゼイは照らされても全く動こうとしないホタルが、ホタルではないことに気づいた。
そして、「なぜ」とだけ、呟いてしまった。
「私は血を飲んだのだ、牛とトラ、放置後、接種後すぐ、様々なパターンを実験し、研究した。しかし、途中で足りなくなった。研究材料が。残っていたのはもう、怪獣だけ。それ以外は、もう実験し終えていたのだ。私は罪を犯して『ヒツジ』を手に入れ、その血を汲んだ。」
ベルは頭を股の下まで下げてから、手と同時に一気に振り上げた。
「その血を私の細胞に接触させると、見よ!どうだろうか!素晴らしい!レベル3など比にならないほどの力、何をとっても今までとは比べ物にならぬほどのエネルギー!」
ベルはゼイに大きく近づき、叫んだ。
「WOLFの資料では、君は怪獣となっていた!なら、その血で、私は更に強さを得られる!」
ベルは高らかに声を上げ、足を動かし、手を振る。
「力こそあれば、WOLFもAIも、私の手中となるのだ。」
「わかったから、ちょっと黙れ」
「うるさい!血を生み出し続ける血袋が。しかし、その前に、若き怪獣に対して『ヒツジ』を得た私がどのくらい戦えるのかの実験と行こう。」
そう言うとベルは親指ほどの大きさのカプセルを一呑みし、同時に、小瓶に入っている血を飲み干した。
ベルの指は鋭く硬質化し、八重歯は伸び、髪は伸びて腰まで届いた。
「さあ、君の血をよこし給えよ」
ベルが携帯装置を握りつぶすと、ゼイを拘束していた機械が外された。
ゼイは機械とベルから一瞬にして大きく離れた。
「こい、血ならたっぷりある」
「前菜から頂こうか」
ゼイの突撃。
足跡は地面に深い傷となって現れる。
コウモリの鳴き声。
共にベルの体が闇に消える。
「後ろぉ!」
ゼイの脚が空を切る。
切られた空の後ろにベル。
突き出されたベルの手から、どこからか、血の塊。
「味わい給えよ」
ゼイは飛び退く。
形を変えた血が、弾丸となって散る。
かすれた呼吸音。
ゼイの指から、頬から血が溢れる。
ゼイは、動こうとしない。
(速く、、速くこっちに来い!)
ベルが、視界の中心から外れる。
鋭い指と、生温い血の温度を感じる。
ゼイが嗤う。
ベルの指を鷲掴みにし、頭で左頬を頭突き。
コウモリの鳴き声。
ベルが闇に消える。
手の中に、生物の感触。
それは小さく、手のひらに収まる。
腹から引き抜き、それを睨みつける。
煮えるような音を立てて、腹の肉が戻ろうとする。
「これは、、、コウモリ?」
背後から、ゼイの脳天に衝撃。




